MOBIO入居企業・常設展示場出展企業のスペシャルインタビュー

ものづくり中小企業の変革と挑戦を支援しているMOBIOでは、MOBIO 常設展示場出展企業様・インキュベートルームの入居企業様の「 変革と挑戦 」について、取り組みのきっかけ(背景)、 具体的な内容などをインタビューしご紹介していきます。ここにはヒントが沢山詰まっているはずです。 じっくりお読みください!

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Create <創造せよ> それこそがものづくり企業の使命。

下西技研工業株式会社 代表取締役社長 下西 孝 氏

下西技研工業株式会社
代表取締役社長 下西 孝 氏

会社名下西技研工業株式会社
住所〒578-0981 大阪府東大阪市島之内2-4-16
電話番号072-966-6131
代表者名代表取締役社長 下西 孝 氏
設立1990年(平成2年)
事業内容機構製品、磁気センサー・各種磁石、ヒートパイプ・放熱ユニット、電磁波吸収体、静電気除電ブラシ等

3つのテクノロジーを基盤に確固たるストラクチャーを構築していく。

3T(メカトロニクス・磁気・熱)製品群

3分野での開発設計・解析が強み

多くの人が毎日のように触っている、OA機器のヒンジ。下西技研工業はこれら特殊なヒンジの開発に成功し、その地位を築いてきた企業だ。とりわけ軽量ヒンジについては圧倒的なシェアを誇る。創業27年にしてコアテクノロジーである「メカトロニクス・磁気・熱」(3T)を駆使し、開発提案型メーカーとして安定成長を遂げてきた。設計、生産技術、製造、品質管理のプロセスを重視した組織づくり。試作品から量産製造までの一気通貫体制を敷き、早くから中国やタイに海外進出を果たした、グローバル企業としての認知度も高い。

「はじまりはヒンジ。かつては蝶番と呼ばれていた頃の主な用途は建築金物や住宅関連で、耐久性や強度が重視されてきました。しかしそれだと競争が激しい。そこで付加価値を高め、新たな分野を目指そうと家電や事務機に展開したのが、当社の変革と挑戦といえます」。
下西孝代表取締役社長は、当時をそう振り返る。同社の精密メカ技術を駆使した高性能ヒンジは、均等で安定した圧力で押さえることができるなど、特殊な構造の中に機能が詰め込まれている。OA機器や家電に新たな機能を持つヒンジが求められるようになってきた頃で、タイミングも良かった。ここで大きく躍進した同社では技術のプラットフォームを増やしていこうと、磁気と熱の部門に着手する。

「そうなると社内にコンセプトが必要となってきます」。国内外にも製造拠点があるため、海外の人と共有し、理解できるキーワードとして、社是を「Create」とした。「新しい商品やサービスを絶えずつくりだす会社であること。これが根底にないとお客様に満足していただけませんし、社会にも貢献できない。もちろん従業員を幸せにすることもできません」

訪問販売で培われた営業力、そこに展示会でのPR力もプラス。

重送検知センサー

BtoC向けパッケージ商品

同社は驚くことに、これまで訪問販売で新規顧客を開拓し、BtoBの分野で実績を積んできた。ものづくり企業にとって重要な販売ルートを確保しているのは大きな強みといえる。

「訪販を深堀りしてきたから今の当社がある。しかし将来を見据え、新しい商品を売っていくにはBtoCという概念も必要だと考えました」

そのためのステップとして、下西氏が選んだのが展示会だ。昨年MOBIOの共同出展という形で東京ビッグサイトの『機械要素技術展』に挑んだ。2回目となる今年は重送検知センサーという新開発製品もお披露目。これはぴったり重なった用紙を正確に検知し、低コスト・低消費電力を実現するもの。複合機、コピー機、印刷機などに使われる超音波式センサーに代わるものとして期待される。「出展するだけでは意味がない。展示会を1年間の目標にして、新たな製品やサービスを開発し、どう変わったかを見せる場とし、今後は展示会を販売の起爆剤にしたい」。また今回は入社2年目の女性社員が新たなリーダーとして抜擢され、中心となって現場を仕切った。「これはいい先輩たちがいて、フォローできる環境が整っている証拠。今回の例はほかの若手社員にとっても、いい刺激なっています」

また新たな動きとして、グループ会社のマグテックにおいてBtoCビジネスもスタートさせた。大手ホームセンターを中心に、2017年10月からパッケージ商品が販売されるという。BtoBに比べるとBtoCは不特定多数の顧客を相手にすることとなる。
「市場が見えづらいなかで、品質管理やクレーム対応の体制を社内に確立しなければならない。まったく違った顧客、業種業態なので何が出てくるか分からない。しかしだからこそ活性化できると前向きに考えています」。
いずれはマグテックをブランド化し、BtoCの展開を取り込んで、自分たち独自の外縁化を推し量りたいと言う。

モノを生み出すのは人間。“20ワット”のアイデアに賭けたい。

MOBIOで開催した研修会に参加する社員

展示会参加でアピール力を向上

またこれからはハードばかりではなく、ソフト=人材も重要だと考える。「3Tは構造も設計・製造方法も違います。それが具体化できたのはひとえにアドバイザーや技術者など、人材に恵まれたからです」。

以前勤めていた企業では人事労務を経験した。人材育成の重要さは身を持って知っている。「会社員時代で感謝したいのは100時間研修を受けさせてもらうチャンスを与えられたこと。目標による管理など、その時の経験が今も役に立っています。今振り返ると、自分にとっての“変革”だったのかもしれません」。だから自社でも、人材育成や研修には力を入れていきたい。「今の時代は、世の中の変化に対応できるところしか生き残れない。いいものをつくれば売れるという発想ではなく、自分の言葉でアピールすることが必要です。そして技術力+アピール力を高めていこうとするなら、見識、考え方、未来像に関わる深い内容にしなければ大きな成長は望めない。加えて、英語力も今の時代は必須となっている」。自社でそういったところまで提供できれば、国内外で通用する人間になるし、最終的には社会貢献になるとも。「私どもの役割を人工衛星のロケットに例えるなら、ロケットの一段目。その後は自分で点火して安定軌道に到達して欲しい。そのための基礎となる部分をつくり込みたい」

また3Tという技術力の確固たるプラットフォームを持っていても、そこに企画力をプラスしていかないと価値は生まれない。そして企画するのは人間、人間力こそ源泉だと語る。
「昨今AIが人間に取って代わられるのでは、ということがまことしやかに言われています。確かに、AIは人間が到底処理できないような膨大な情報処理を即座に行い、結果を示すことが出来る。しかし、その消費電力は20,000ワットと言われています。一方で人間がアイデアを生み出す時に、脳は約20ワットで動作するらしいです。人間にはAIができない同時に考えることや、プロセスを提示する能力が備わっています。私は人間の“20ワット”に賭けたいのです」。

次のステージ進むためには、現在の3T(3つの技術分野)を深堀するだけでなく、センサーや光を含めた技術分野を5つ、7つと増やしていきたいと考えている。
これからが本番、やるべきことは山ほどある。「明日は今日より、絶対に良くなる。司馬遼太郎氏の『坂の上の雲』のような、そんな未来に対する肯定的な時代にあった、あの高揚感を取り戻したいですね」

MOBIO担当者より

軽量ヒンジで高占有率を獲得し、新製品の普及型重送検知センサーによりOA市場で一層の事業拡大を目指す下西社長。実現の要として、「ロケットの一段目の噴火は企業支援、以後は自己努力で高く打ちあがってほしい」と企業内人材教育の重要性を強調。2017年大阪ものづくり最優良企業賞を受賞された指導者として、将来に向けた熱い思いをお聞きしました。(兒玉)

取材日:2017年7月26日(水) ライター:町田 佳子