MOBIO入居企業・常設展示場出展企業のスペシャルインタビュー

ものづくり中小企業の変革と挑戦を支援しているMOBIOでは、MOBIO 常設展示場出展企業様・インキュベートルームの入居企業様の「 変革と挑戦 」について、取り組みのきっかけ(背景)、 具体的な内容などをインタビューしご紹介していきます。ここにはヒントが沢山詰まっているはずです。 じっくりお読みください!

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会社はもちろん業界のために、“ど真ん中”を貫くパワフル経営

中海鋼業株式会社 代表取締役 谷口 佳史 氏

中海鋼業株式会社
代表取締役 谷口 佳史 氏

会社名中海鋼業株式会社
住所大阪市西区境川1-5-49
電話番号06-6581-3014
企業HPhttps://www.nakaumi.com/
代表者名代表取締役 谷口 佳史 氏
設立1961 年
事業内容寸切(全ねじ、アロイ)、長ねじ、ケミカル用寸切(全ねじ)ボルト、両ねじ、片ねじ、その他ねじ製品、金属加工製品の製造

工場勤務から修行を積み、海外事業を動かすまでに

主に加工ねじを製造している岸和田の工場

材料の調達から現地で行うベトナム工場。すでに品質の高さは認知されており、日本国内の顧客からの信頼も
厚い

岸和田市に2 工場、ベトナムにも生産拠点を設け、主に建築金物として使われる全ねじを製造している中海鋼業株式会社。その代表取締役を務める谷口佳史氏の経歴は少し異色だ。「学生時代からバンド活動に明け暮れて、ここに就職したのが32 歳のとき。本当に遠回りの人生です」。一時はプロのミュージシャンとして稼いでいたが限界を感じ始めたため、救ってもらうような形で中海鋼業に入社し、工場勤務からキャリアスタートした。「とはいえ細々とした作業は苦手でした。私が唯一会社に貢献できるとしたら、バンドマン時代に培ってきた人脈と、CD を手売りで捌いたコミュニケーション能力を生かせる営業しかない」。その念願が叶って1 年後には本社勤務となるが、体調を崩した人員の穴を埋めるかたちで経理を担当することに。「正直、最初はおもしろくなかったです(笑)。でも財務の視点から会社を見つめ直すといろいろな課題が浮き彫りになって、課題に取り組むことで会社が変わっていくのが実感でき、意識も経営に向いていきました」。こうしてめきめき頭角を現し、役職を駆け上がっていった。
2017 年にベトナム工場を立ち上げたのも、当時常務だった谷口氏の発案だ。「友人が海外で始める事業のための調査に同行したんです。バンドマン時代に海外ツアーをしたこともあり、もともとは海外志向。うらやましいなと思って、自分でも調査を始めました」。現在の工場責任者とベトナムで出会ったことをきっかけに、工場設立までとんとん拍子に進んだという。「彼らは日系企業に勤めているというプライドがあって、技術力も高い。品質のハードルを与えられると、喜んで取り組んでくれます」。今やベトナム工場は大量生産に特化し、中海鋼業を支えている。

会社の針路を理念で明確化。強力な縁をつなぐ発信力

谷口氏は実績を重ね、2018 年に代表取締役に就任。それと同時に新たな経営理念“正しきを正しく、美しきを美しく、変化することを恐れず。ど真ん中を貫いていく。全従業員の、物心両面の幸せの為に”を打ち出した。シンプルに正々堂々と正しい道を歩み、道の先に障壁があっても正面からぶつかっていく、それを経て社員全員が物心共に豊かになる、という思いを表した言葉だ。「中小企業の経営者と従業員は、ちょっと距離があると思うんです。でも私は一緒にやりたいという気持ちが強かった。和気藹々ではいかない部分もありますが、まずは自分たちが幸せになって、お客様の満足や社会への貢献として還元する、というのを恥ずかしがらずにやりたかったんです」。理念を掲げることで、谷口氏自身が判断に迷ったとき、自分の選択が本当にど真ん中を進んでいるかを示す指針になる。また従業員も理念に基づいた行動や判断を見せるようになり、中海鋼業の変化を実感しているという。
もう1 つ取り組んでいるのは、属人化の問題。「例えば人材育成に関して、以前は個々人の能力に依存する部分が大きく、会社として育てるノウハウを蓄積できていませんでした。これ以外にも属人化の問題はさまざまな領域に及び、非常に悩んでいました」。そうした悩みや思いを、谷口氏は口に出すようにしている。するとその思いに理解を示し、助力を買って出てくれる人物と出会えた。「大企業に勤めていた方が、『面白そうだから一緒にやりたい』と来てくださったんです。ベトナム工場のときもそうですが、たまたまいい人がいてくれたという感じです。ただ、まず自分が燃えていよう、という思いは常にあります。そういう人には、人との出会いがあると思うから」。ど真ん中を貫く谷口氏の行動と発信力が人の縁を引き寄せ、会社が抱える問題のソリューションとして実を結んでいる。

随一の生産量でイニシアチブを握り、業界を盛り上げたい

中国の安価な製品があらゆる分野のマーケットで存在感を示しているが、全ねじも例外ではない。勝負の土俵を価格ではなく、付加価値に求めるのも同様だ。中海鋼業には培ってきた転造加工に加え、特殊加工の技術がある。小ロットからさまざまな特殊ねじを製造できるが、今の一押しはローレット。このローレットの付加価値を高めるべく、産学連携にも取り組んでいる。加工の種類ごとの摩擦係数を数値化することで、用途を明確にし、安全性のアピールにもつなげるというのだ。このほかにも新たな製品を生み出すべく、研究開発の部署R&D を立ち上げた。目下取り組んでいるのはボールねじ。「ボールねじは数年に1 度、必ず供給不足に陥るようです。超精密ボールねじは無理にしても、標準品なら転造技術で製造可能です。このランクであれば、“ねじの中海”ブランドとして浸透できる可能性があると思っています」。
特殊加工のPR に力を入れている一方で、メインの方向性としては大量生産に向いている。中海鋼業では日本・ベトナム工場合わせて年間約1 万トンのねじを製造しており、これは国内有数の供給量の量になる。
「マーケットシェアを高めれば、必然的に当社がプライスを決める立場になるはず。業界のイニシアチブを執って、競合他社も含め全ねじメーカー全体の価値を高めたいですね」。
業界に、世界に誇れる会社をめざす谷口氏。将来的にはアメリカやEU での販売も視野に入れているといい、野心的かつ現実的に事業の拡大を図っている。今やねじ製造はオールドエコノミーの部類に入るだろう。しかし谷口氏の取り組みが、今一度日本のねじ業界へ世界からの視線を集めるきっかけになるのかもしれない。

強度に優れた転造加工でねじを製造。さまざまなサイズのダイスが並ぶ

新製品のアイデアも、現場の職人がいればこそ。熟練の技術が中海鋼業を支えている

中海鋼業は女性従業員が多く、働き方改革にも積極的。やりがい、待遇の両面から社員の幸せを実現しようと取り組んでいる

MOBIO担当者より

「中海さん変わったね」との声が出て来たという。Old Economyから脱却を目指し、風通しの良い企業への仕組み作りを実践された谷口社長は、音作り業界から来られた異色経歴の持ち主。ねじメーカーとして業界のDX化にも注力され、新しく「WEB見積り受注システム」を開発。その名は「NaKaNaKaナカナカ」と社名にちなんだユニークなもの。元ボーカリストのリードで、これからも新編成の「企業ハーモニー」が奏でられるでしょう。日本でも、ベトナムでも。(MOBIO 兒玉)

2022年2月22日(火) ライター:東原 雄亮