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販路開拓・PR~新規顧客開拓編~
自社の強みを打ち出す方法論とは

販路開拓やそのためのPRを考える際、ノウハウがない中小企業の担当者は手段が目的化してしまったり、テクニックに走ったりしてしまいがちだ。本当に効果のある、ゴールの見えるPRを行うためにはどうすればよいか?限られた予算や時間のなかでも、地道な努力と工夫によって拓かれるべき道はきっとあるはずだ。
今回の巻頭鼎談では、新規顧客開拓を積極的におこなっている企業の代表に登場いただき、インターネットや展示会の活用による新規顧客開拓などについて具体的な事例も交えて語っていただいた。ものづくり中小企業のPR方法論とはいかなるものか。PR戦略に長けた三者三様の方法論と姿勢から、自社の活路を見出して欲しい。

PR手法とその手法に至った経緯はさまざま。

三元ラセン管工業株式会社
代表取締役
髙嶋 博氏

三元ラセン管工業のベローズは、内側から圧力をかけて1回で成型する量産品と違い、外側から7回に分けて圧力をかけて成型していくため、金属に無理な負荷がかからず、耐久性や精度も高まる。恐ろしく手間がかかる製造法だが、そうして生まれる製品は量産品にはない優れた特性を持つ

―今回お集まりいただいた3社は、ものづくり企業にとっての難関である「新規顧客開拓」に向けて、独自のPR活動を展開されています。まずはそれぞれの活動をお聞かせください。

山田 当社では1999年1月に売上が95%減という一大事に遭遇し、それをきっかけに「整理・整頓・清掃」の「3S活動」に基づく工場の環境改善に着手しました。業績が低迷している中で、お金をかけずにできる唯一の会社強化策だったわけです。
この3Sを徹底することで、工場が変わり、社員の考え方も行動も変化しました。また3Sに取り組んで以来、工場見学を営業活動に組み込んでいます。
髙嶋 先代までは製造卸のため、取引先は売上の6割ほどを3社が占める、取引先の景気に左右される経営でした。そこで私が就任後、直販に切り替えようとしたタイミングに、ベローズを製造していた会社が廃業することになり、機械を譲ってくれることになりました。そこから3Sを実践し、コンサルの手を借りずに3年かけてISO9001を自力取得したことが、マスコミに取り上げられたんです。以後インターネットと展示会を使った戦略で、1,000社を超える取引先を開拓できました。
下西 1990年の創業時にはバブル崩壊がはじまっていましたが業績は順調で、リーマンショックの際も赤字を出さなかったため、「どんな不況でも乗り越えられる」自信がありました。技術も自社完結しており、宣伝する必要がなかった。しかし次の展開に向け、PRについて考えて、2年前から専門の広報担当をおいたタイミングで、MOBIOから展示会へのお誘いをいただきました。

―展示会に出すことになったのは、どういう意図からですか?

下西 今まではコア技術中心の受注。次のステージに進むためには、今のコア技術を深堀りするだけでなく、センサーや光を含めたものも見据え、となるとそれに対する基盤・ソフト・アルゴリズムなどが必要でした。そこで協力してもらえるいろんな技術を持った会社と出会いたいというのが出展の目的です。

3Sからはじまる、企業変革&社員教育。

―山田さんの会社には「3Sで企業変革を実現した会社」として、毎年世界中から見学者が訪れていますね。

山田 社内での地道な取り組みが実を結び、今では年間約250社以上が工場見学に訪れ、3Sを通じて若い社員が生き生きと働く社風を見ていただいています。これまで当社を訪れたのはのべ53ヶ国約4,000社ですが、そこから取引につながったのは5社くらい。ただ噂が噂を呼び、国内は北海道から沖縄まで果ては海外、ドイツからも連絡がきます。まさに「良い現場は、最高のセールスマン」です。新規の場合であれば、現場を見てもらえれば90%は成約する自信があります。
下西 私も3Sや5Sは非常に興味がありますが、やはり継続していくのは大変じゃないですか?
山田 これはトップの「熱き想い」ですよ。まずは明確な仕組みをつくってしまうことです。でもこの仕組みやルールを、いちばんはじめに例外をつくって破るのがリーダーなので(笑)、そこをきちんと守ることですね。
髙嶋 私も山田さんの会社に見学に行きましたが、こちらに比べると当社はとてもゆるい3Sで(笑)。先ほどお話したようにベローズの機械を譲ってもらい技術を獲得したところで、工場が「汚い」という理由で大手企業からの取引を断られました。そこで自分たちでペンキを塗ることから3Sをはじめ、ISO9001を自力取得することが社員教育につながりました。その時から若者が夢を持って働き続けられる会社を目指してきました。

―両社ともに3Sによる意識革命が根底にあると。山田製作所では、自社ブランド商品で新たな挑戦もされていますね。

山田 これは18年前から使っている工程管理ボードで、工程・生産管理を「見える化」することにより、全員がやるべきことを確認でき、先の作業予定まで一貫して全体で把握することができます。
よく見学に来られた方から「販売しないのですか」と聞かれていたんです。知り合いの企画広告会社が声を掛けてくださり、自社ブランド「ワイデクル」を立ち上げ、管理ボードを商品化しました。

ネットの情報発信は、つくり手の思想まで伝えられる。

下西技研工業株式会社
代表取締役
下西 孝氏

昨年6月東京ビッグサイトで開催された「第21回 機械要素技術展」に共同出展した下西技研工業は、今年も出展。昨年とは展示物を一新して、微小変位を検知する高応答変位センサ、トルク値をカスタムできるフリーストップヒンジ、熱対策・熱コントロールなど自社開発の新製品を中心に展示

―髙嶋さんはITと展示会を併用することで卸売から直販へのシフトを成し遂げられました。ネットの重要性を認識し、うまく活用されている。ブログも長く続けていますよね。あれを拝見すると「継続は力なり」を実感します。

髙嶋 製造卸から直販への変革が成功したのは、ネットがあったからこそ。12年前から2つのブログを続けています。製品紹介の「ベローズ案内人の日記」は2005年2月から、私個人の「社長の日記」は2006年3月から。後者は平日ほぼ毎日更新してます。
下西 毎日更新!そんなに話のネタはありますか?
髙嶋 毎日書くと結構ネタが出てくるものです。続ける秘訣は思ったことを徒然に書いて、100点満点の文章を目指さないことです(笑)。当社は8時始業なので、7時に出社して始業までの間に書き上げるようにしています。
山田 私もブログは5年ほど毎日続けていましたが、今はFacebook(以下FB)に移行しました。
髙嶋 SNSでは製品ごとにFBのページをつくり、FBとTwitterに更新したブログのURLを貼っています。ブログを読んでFBの「いいね」を押してくれた人が25,000人を超えました。今は3万人を目指しています。
下西 うちはSNSもできていないですね。当社は基本、お客様のもとに直接うかがう訪問販売なんです。よく「訪問販売だけでやってこれたね」と言われます。しかしそういう意味では、「まだまだ伸びしろがある」と前向きに考えていきたいです(笑)。
髙嶋 うちが目指すのは「行かない営業」(笑)ですね。情報発信して来ていただく。今ではネット経由の売上が全体の1/3を占めます。
山田 うちも毎年20社ほど新規の取引がありますが、ほとんどネットからのお客様です。社長ブログはマッチングに威力を発揮します。ブログがなかった頃は価格の問い合わせだけだったり、ストライクゾーンから離れた案件が多々あったのですが、ブログにものづくりへの想いを日々綴るようになってからは、「どストライク」な顧客からの問い合わせばかりになりました。
髙嶋 ブログを通じて、つくっている人間の「人となり」を知ってもらうことで、「こういう社長の会社なら、安心して仕事を頼める」と思っていただける効果は大きいです。だからこそ、社長個人のブログでは「売りたい」ことをアピールすべきではないとも思います。

事前告知、新製品披露、アフターフォローが展示会のキモ。

株式会社山田製作所
代表取締役社長
山田 茂氏

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成事業で、水素・燃料電池関連分野における今後の取組の方向性を示した「H2Osakaビジョン」に参画し、日立造船株式会社が開発した業務・産業用固体酸化物形燃料電池発電装置(SOFC)のケーシングを山田製作所が製作した

―次に展示会についてお聞きしたいと思います。展示会で成果をあげるために大切なポイントを教えて下さい。

髙嶋 最初に展示会に出展したのは2002年。製造卸から直販へシフトする過程で、会社と製品を広く知ってもらう最適な方法として出展をはじめました。もっとも力を入れているのは東京ビッグサイトの「機械要素技術展」です。
下西 昨年はじめて「機械要素技術展」の共同出展に参加したことで、今までにない顧客と出会えました。今年も出します。売り先は押えてあるので販路開拓というより、一緒に仕事ができる企業を求めています。展示会で成果をあげるために何かされていますか?
髙嶋 私がよく言うのが「展示会がはじまった時点でその成果は出ている」ということ。大事なのは開催前に情報発信をきちんとやって、しっかり集客すること。だから招待券を送付し、ネットやSNSでしつこいほど告知する。うちは設計の方をターゲットにしているので受注は1、2年後でないと来ないんです。
だけど続けないと効果はない。「ブログ+展示会」、どちらも続けてきた結果、社長に就任した当時は100社にも満たなかった取引先が1,200社まで増えました。
山田 髙嶋さんのおっしゃる通り、展示会は毎年出さないと意味がない。展示会に出すと1年間は効果があります。「今年も出てるな」と来る人は見てくれています。

―ITによる情報発信も展示会に出展し続けることも、すべて継続することで好循環が起こるのですね。ところで展示会では新製品や新技術、という目玉商品が必要ですよね。

髙嶋 ですから展示会に向けて新製品の開発を進めます。毎回新しいものを用意するのは難しいですが、同じ製品を少し変えたりして、違いを見てもらうようにしています。
下西 当社のひとつの分野とだけ関わっていた顧客にも、技術のレンジの広さを見てもらえたのも大きかったですね。長いお付き合いでも「こういう技術も持っていたのか」と知らない方もいましたので。だから営業は「展示会には新製品を出さないともったいない」と実感しているわけです。
髙嶋 「ブログ+展示会」を14、5年続けても、未だに「これ何?」と聞いてこられる方はいっぱいいます。それと新製品をアピールすることで、それ目当てのお客様がきますから、事前にどんどん伝えたほうがいいですよ。
下西 そういうものなのですね。開催後のアフターフォローはどういうことをされているのですか?
髙嶋 「行かない営業」が基本ですが(笑)、展示会に来られたお客さんで手応えを感じたり可能性があるところには全部、直接営業に行きますね。東京ビッグサイトなので訪問先は東京ばかりで大変ですが、展示会後から1ヶ月くらいかけて訪問をします。
下西 やはり開催後にフォローしなければ意味がないですよね。

MOBIOを使いこなして、新規開拓へ。

―ものづくり企業の「経営戦略」として、営業とPRどちらを重視されていますか?

山田 PRというより発信重視ですね。この座談会に出席しているのも、自社のことを話せるチャンスだからです。人前で会社のことを話して伝えるということは、経営者の大切な仕事。だからチャンスをいただいたら、しっかり発信する。それと発信した分だけ、インプットもあります。「こんな考え方で仕事をしています。こんな技術があります」と一生懸命発信しているからこそ、アンテナを立てている人には引っかかります。
髙嶋 私も今日は午前中、近畿大学で講義をしてきました。これは中小企業ができる社会貢献であり、ものづくりのことをたくさんの人に知ってもらえる機会でもあります。

―みなさんは、MOBIOをどのように活用されていますか?

髙嶋 MOBIOが開設されることを新聞で知って、これは何が何でも常設展示場に出展したいと最初から決めていました。
山田 最近の例を挙げると、日立造船による国の環境に関わるNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の仕事で、燃料電池のケーシングを受注しました。これはMOBIOの常設展示場にある、当社の技術を集結させた「ホーキチ課長」という展示を日立造船の担当者に見ていただいたことがきっかけです。
それと毎月開催される「MOBIO-Cafe-Meeting」は、発信と出会いの場。まず知り合い、学び合って、そして援助しあう。だから知り合うことが重要で、その舞台としてMOBIOは立派に機能している。
下西 私の場合は最近ですが、展示会出展のきっかけもいただいて、MOBIOを訪れて目が開かれたという感じです。展示会に関しても当社の営業担当を10回近く勉強会に呼んでいただいて。彼らもMOBIOには喜んで来ています。今回の新製品も実は売り先は決まっているのですが、「私たちの製品にどんな機能があり、どのように世の中の役に立つかを知らせたい」と広報担当から展示会に出す提案がありました。

―最後に今後の展開をお聞かせください。

山田 いろんな企業と連携していきたいですね。信頼関係を築ける会社と一緒になって、強みは伸ばしていき、弱みは連携でカバーする。大阪は連携が苦手な土地柄でしたが、MOBIOができてから、ここを中心に大きく変わったと思います。
下西 次の展開として考えているのは「BtoB の BtoC化」。そのための協力会社が必要です。今まで独自のやり方で効果も上がっており、外に出せないものも多く、自社の情報はクローズドでした。しかし自分たちで新製品を出すなら情報も公開できます。これからはうるさいくらいに情報発信していきますよ(笑)。
髙嶋 当社は特注品しか扱っていないので、業績を伸ばすことを考えると海外に目を向けざる得ない。うちの製品は使われ方が90%わかりません。設計を担当する方に現物を見てもらわないと、売り込みにも行けない。そのために社内の人材育成や海外の展示会出展なども積極的に進めていきたいと思っています。