MOOV,press

MOBI6

ものづくり企業の次の一手は? 毎号6つの旬な記事で熱い「変革と挑戦」を紹介するモビロク。
現状打破のヒントやモチベーションアップにつながります。

ヒット商品の構造を見直し、新業種へ切り込む製品を開発。

1m3あたり19kgと軽量で加工しやすい、ボードタイプのカルモフォーム typeB。難燃性でしっかり自立するため使いやすい

フラワーアレンジに用いる吸水スポンジ、アクアフォーム。生花資材販売の松村工芸のヒット商品。熱硬化性のフェノール樹脂が主原料で、特殊な網目構造で水を含んでも漏らさず、空気が通りにくいうえに硬い性質を持つ

1928年の創業以来、生花の資材業界のリーディングカンパニーである松村工芸。オリジナル製品であるアクアフォームは、切花用吸水スポンジ市場の国内シェアを独占するヒット製品だ。しかし近年、生花業界市場は縮小傾向にあり、それに対応するため社内に開設された特販営業部課長代理の松島秀典氏は「アクアフォームの多孔質を改良すれば吸音材になるのでは?」という素人発想から始まり、技術部の応援を受け超軽量型吸音材「CALMOFOAM(カルモフォーム)」の製造・販売に漕ぎ着けた。
カルモフォームは空気を通しにくく中低音を吸音するとともに、音を通しにくいことから遮音性能もある。吸音の要は多孔質という構造。多孔質のなかに音が飛び込んでくると、長い時間をかけて音の撹乱が起こり運動エネルギーになる。それが熱エネルギーに変換され、音が吸収されるというしくみ。商品は1㎥あたり19kgで、従来のグラスウールに比べても軽量。吸音と遮音を合わせて防音というが、空気を通すのが吸音材で、反対に空気を通さないのが遮音材。それぞれ相反する性質を持つため、防音壁をつくろうと思えば吸音材と遮音材が必要で、従来であれば「防音材は重い」と考えられていた。「防音できて軽い」カルモフォームは、そんな常識を覆す。
しかしこれまでとはまったく違う業種への挑戦。販路開拓には苦労したという。最初に注目されたのは建築業界の大手ゼネコンによる住宅街に近い橋梁の耐震補強工事の騒音対策に採用された。事前に工事現場と同状況でシミュレーション実験をしたところ、約123dBあった騒音を約63dBまで下げたという。その性能の良さが認められて工法特許を共同で取得、国土交通省の新技術情報提供システム「NETIS(ネチス)」にも審査登録された。また大阪府の新分野・ニッチ市場参入事業化プロジェクト支援事業に採択され、1年間の伴走支援を受けた。ここでは工場騒音を解消する防音材として事例をつくっていくことを目指した。すでにいくつかの工場でめざましい効果をあげており、現在はさまざまな業界から声がかかっているという。

>紙面からの続き

カルモフォームの開発の過程では、既存技術を見直し、原点に立ち返ったときに松島氏が思ったのが、「なぜ水を吸うことしか考えなかったのか」ということ。「ウレタンのスポンジは音楽スタジオなどで防音にも使われている。同じ多孔質である従来品も吸音に使えるかもしれない」。そこで大阪府立産業技術総合研究所の吸音率測定システムで、吸音性能を試験してもらった。本来であれば吸音には適合しない構造だったため、「残念な数値が出てもショックを受けないで」と言われたが、藁をもすがる思いで結果を待った。ところが試験結果を見た担当者は驚いた。通常はできない低い音までしっかり吸音していたからだ。試験方法を間違えたのではと、再度トライするも結果は同じ。それは暗闇に一条の光が刺した瞬間だった。

松村工芸株式会社
http://mkaa.co.jp/
http://www.calmofoam.com/
東大阪市長堂3-2-23 TEL 06-6782-3336

カルモフォームは音(振動)を全体で受け止め、フォーム自体で微振動を起こす。この振動は内部の連続気泡体で構成された三次元多孔質を通過することで内部共鳴し、エネルギーロス(減音)を起こして吸音する。また空気の流れに対して抵抗が高いため遮音効果がある

カルモフォームは中低音から高域まで、バランス良く吸音するため調音性に優れている。快適な音環境をつくれると、防音室などにも採用されている

軽量のパネルなので接続・設置・撤去作業が容易。カッターで簡単にカットできるため工場の壁や機械を囲む場合も自由なサイズで取付けて防音できる