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「横のつながり」が技術や世代をつなぎ、
顔の見える関係がビジネスを育てる。

近年、産業構造全体の中でものづくり企業に求められる役割も変化した。受注の減少、現状への危機感、取引先のニーズの変化、成長分野への展開など一社の経営資源では対応できない、直面する課題や新たなニーズにも対応していくために企業は連携に取組んでいる。連携活動をうまく進めていくには、ビジネスのみのつながりだけではなく、個々のメンバー企業にとってメリットにつながるような相互の理解、技術を高める取組みを同時におこなう必要がある。 今回登場いただいた3社は「イノベーションを世界に発信する」「地域のブランド化を目指す」「地域の中小企業がつながり成長する」といった目的で同業者や異業種と連携している。同じ目標や志を持つ「仲間」とつながり、さまざまなことに挑戦するなかで、連携を維持するための苦労やそこで得られたことなどについて語っていただいた。

顔の見える関係性を大切にし 「つながる町工場」を目指す。

成光精密株式会社
代表取締役 高満 洋徳氏

中橋製作所
代表 中橋 修司氏

高満 「世界のものづくりの課題を解決する」というビジョンを掲げた「Garage Minato(ガレージ・ミナト)」を2018年4月から運営しています。コンセプトは「町工場の減少とそれにともなう技術者の減少「下請構造からの脱却」という課題の解決。次世代育成、町工場の技術共有と継承、町工場が持つ技術・ノウハウと、研究者・技術者・ベンチャー企業が持つアイデアや先端技術を合わせて新事業創造を目指すオープンイノベーション拠点です。またGarage Minatoのスーパーファクトリーチームとして月1回セミナーをおこない、顔と顔を合わせながらの関係性をつくりつつあります。
中橋 スーパーファクトリーチームには、私もエントリーしています。
柊谷 僕も入っています。
高満 現在30社ほどで、もっと増やしたいんですよね。さらに課題として、ここ20年ほどで技術者や町工場数が大きく減少しています。この傾向が続くと、日本のものづくりにとって技術継承も含めて大きな損失となります。また下請構造からの脱却も必須で、これは一社依存構造のため顧客が研究開発を内製化されたり、海外に製造拠点を移したりしたときに生き残っていけません。あと町工場同士の連携が全然ないんですね。
柊谷 それはわかります。僕たちが経営を学ぶにしても、町工場は横のつながりが全然ないので深い話もできない。
高満 卓越した技術を持っているがゆえに専門性が高く、逆にほかの技術がまったくわからない。それなら町工場同士が知り合って一緒にできるネットワークをつくろうと。スタートアップのアイデアを形にするためには、複数の工場で協力しなければならないケースも多いですから。それとGarage Minatoでは、大阪市が認定した優秀な技能者「大阪テクノマスター」と連携しています。弊社の工場長も認定されていますが、各分野におけるスペシャリストと連携することで「Garage Minatoに相談すれば、ものづくりに関する悩みはすべて解決する」という体制をつくり上げていきたい。
柊谷 僕はセミナーでその工場長の話に刺激を受けて、テクノマスターを目指したんです。技術へのこだわりや熱意、語り継いでいきたい想いを悠々と語る。その姿がとても輝いていましたから。僕たちの「てづくり工場組合」は2015年1月に発足。ほかとの違いは、まず歴史ある産業集積地である九条のブランド化を目指しており、地域を限定していること。この地は江戸時代の船大工からはじまり、戦後鉄を扱う工場が軒を連ね栄えた「鐵のまち九条」として知られていましたが、近隣の町工場の数は40年で1/4に激減し、今も厳しい状況が続いています。そこで町工場が生き残っていくために考えたのが、地域でネットワークを組むこと。溶接・旋盤・曲げ・材料屋などのメンバーを集めて「九条の町」がひとつの工場というイメージを持ってもらう。完成品の見積りがきたときに、ネットワークを使ってワンストップで届けられるのは強みになります。
高満 今、何名ぐらいいるのですか?
柊谷 6人です。メンバーを後継者に絞っているので少人数です。廃業などで技術が受け継がれないまま途切れてしまうと、産業集積地としての強みが減っていく。それを食い止めたい。あと家業の発展ですね。この継続と発展、そして「共に学び、共に成長する」をコンセプトに掲げています。目標は大きいほうがいいし、組織を広げたい気持ちはありますが、自分たちが上を目指すためには、地域の活性化なしではありえないと思うので、地域のものづくりを盛り上げたいんですよね。
中橋 具体的にはどういう活動をされているのですか?
柊谷 町工場が苦手な情報発信を頑張っています(笑)。月1回の勉強会や、大阪府の就労に関する部署と一緒になったプロジェクトも展開しています。
中橋 私が主宰する「SAW~創~」(以下SAW)というグループは、2017年11月から正式活動しています。現在は30名が在籍し、30代40代が中心。メンバーは私と同じような小規模企業の経営者、もしくは次期経営者、自営業主がほとんどです。メンバーとはメールやLINE、Facebookなどで連絡を取りあって2ヶ月に1回、勉強会と懇親会を開催し、メンバー間の相互理解とつながりをつくっています。
柊谷 きっかけは何だったのですか?
中橋 私自身ひとりで仕事をしているので営業に回れず、しかもうちの仕事は飛び込み営業で取れるものではない。とはいえ営業しなけば得意先も広がらない。現状維持だけを考えていると衰退してくだけ。「半歩前進で現状維持」だと考えているので、常に少しでも前進しなければいけない。先代の頃は高度成長期で東大阪という立地もあり仕事がどんどん入ってきましたが、高齢化や後継者不足で次々に廃業してつながりも消えつつある。だからこそ知り合いを増やさないといけないと思ったんです。
柊谷 会社規模が小さいところばかりですか?
中橋 自然とそうなりましたね。一応決めているのは「決定権のある人」もしくはそれを継ぐ人。業種は問わない。弁護士や税理士は選別して入ってもらっていて、グループを見渡したら知恵袋として相談できる人もいて、実際の仕事のやりとりができるようにしています。
高満 とてもいいと思いますね。異業種だから仕事も頼めますしね。
中橋 勉強会では「明日から役立つ知識」を学びます。個人や家族経営では社労士や税理士を雇うのは難しい。みんな専門ジャンルに秀でた人ばかりなので仕事はできるけれど、忙しくて経営の勉強まではおぼつかないのが現状です。じつは私は30代前半まで証券や保険の会社に勤務していたので、経理には強い。そこで私が教えましょうと(笑)。

柊谷熔接所
代表 柊谷 篤司氏

グループやネットワークを支える人をいかにして集めるか。

工場2階に設けられたGarage Minatoはポップでデザイン性溢れる空間。ベンチャー企業が入居する個室、コワーキングやオープンスペースを備えている

大阪テクノマスターを講師に毎月おこなわれるセミナー。前回は株式会社三共合金鋳造所の長谷俊明氏を招き、鋳物づくりにおける卓越した技能を紹介

柊谷 SAWのメンバーはどうやって集められたのですか?
中橋 面白い勉強会がないかネットでつねに情報収集しているのですが、そういうものに参加して条件に合う人を探しました。私は知り合って2日目でも10年前から知っているみたいに付き合うことができるんです(笑)。
高満 さすがは元営業マン(笑)。
中橋 たとえば『MOBIO-Cafe-Meeting』では、ものづくり企業が自社のプレゼンをされますが、それを聞いてから懇親会で自分の会に入って欲しい人に話しかけます。一緒にやっていきたいので募集はしない。「自分の目で見て、話を聞いて」一本釣り。2ヶ月に1回の勉強会に、必ずひとりは増やすということを決めていて、それを達成しています。
高満 じゃあ年間必ず6人は増やしていくということ?それは凄すぎる。
中橋 うちのグループは私が会長で、すべてを仕切っていて。勉強会の開催日程や内容の決定から連絡、出欠の確認まで私ひとりでやっています。ちなみに出欠のメールを2回スルーしたら、退会というルール。仕事上のつきあいは続けますが、連絡網から削除します。これって厳しいかな?
高満 いやそれを了承して入っているんだから、いいと思いますよ。
中橋 私はグループというのは、顔と顔をつき合わせて話をして、何でも言える関係であることがベストだと思っています。そのなかで仕事のやりとりができればいい。だからメンバーの工場はすべて見に行っています。それによってどういう設備や技術を持っているか、どんな仕事をしているかがよくわかり、仕事も頼みやすくなる。
高満 たしかに現場を見ないとわからないですよね。私は知り合いの方に声をかけて紹介してもらったり、テクノマスターを認定する大阪市の経済戦略局からも紹介していただいています。あとは講演をお願いされたら、こういう方がいるので同じ想いの人がいたらぜひ一緒にやりましょうという形で、講演会の前にアピールさせてもらっています。
中橋 この講演会の前のお話が、熱いんですよ(笑)。
高満 やはり「知って興味を持ってもらう」ことが大切なので熱が入ります。先ほど柊谷さんがおっしゃっていましたが、情報発信って私たちの弱い部分。そういうところはクリエイターさんとのコラボという形で、アドバイスをいただきながら発信しています。
柊谷 うちは地元に根を張っているメンバーがいるので、商売の内容や規模、得意先などの情報を知っており、さらに知人がいれば人となりもリサーチしたうえでお話させてもらうようにしています。地域や後継者などに重きをおいているので、広く募集するというよりは、そうやってひとりずつ増やしていくという感じです。

小規模事業主の金属加工ネットワーク「SAW~創 ~」の勉強会風景。今回は経営者にとって今最もホットな話題である「働き方改革」を取り上げた

講師を務めるのは中橋氏。毎回、勉強会のためにメンバーみんなが興味を持つテーマを考え、自身も勉強会に出席して知識を蓄えて当日に挑む

ものづくり企業における横の連携、そのメリット、デメリット。

50年以上も溶接に携わるベテランの先代と、若手ながら20年のキャリアを持つ現代表。 2人の職人が機械を使いこなし、精度の高い多種多彩溶接を 実現

中橋 「仕事が欲しい」というところからはじめて、思ったほど仕事は増えていないけれど(笑)、困ったときに頼れる相手がいるのはとても心強い。それがグループを組んでよかった点。それとふだん扱わない素材がきても、加工条件を電話ひとつで相談もできるしね。
柊谷 ちなみに同業他社はメンバーにいないんですか?
中橋 微妙にズレていますね。それと私は勉強会で名刺交換したとき「真鍮・砲金をメインにしている」と特徴を伝えてきましたが、そこに最近は「グループ内では金属加工のメンバーが揃っている」言えるようになって。しかも少人数でやっている人ばかりだから「小回りも利き、少量の試作にも対応できる」と伝えると目を輝かせて聞いてくれる人が多い。そのあたりから見積りが増えましたね。
高満 ネットワークをつくることで、うちも取引先や連携工場も増えました。応援してくださる方も多くいて大手企業が新規顧客になってくれたり。ただ、いちばん大切な「町工場のネットワーク」ということに関していうと、まだまだかなと思っていて。
柊谷 「ネットワークのなかで、またネットワークが広がっていく」というのも大切。たとえば講演会に行って素晴らしいと共感したら、人に話したくなるでしょ。自分の知り合いであれば、僕が熱く語るほうがその感動が伝わりやすい。仲間を紹介するのも大事かなと思っていて。またそういう人には同じような知り合いがいたりするので。
高満 友だちの友だちってフィーリングが合うというか、響くんですよね。
柊谷 うちの会はドラッカーの『マネジメント』を共読したり、意外と真面目な会で。自社に当てはめて読むのですが理解できる箇所もあれば、わからないところも出てくる。同じ町工場でもバックボーンや業務も違うから、共感のポイントは違います。読み解けない箇所があっても、読後の勉強会での感想スピーチで、ほかのメンバーが経験をもとに共感できた話として聞くと理解できたりします。結果、それが自分の成長につながる。高めあいですよね。それと「得たことをすぐにやる」を念頭に置いていて。先日も講師を招いて3S活動の勉強会をした後、朝礼を見学にいって意見を交換したり。あと職種は違っていてもメンバーの仕事はとても刺激になります。
中橋 逆に困ったことや苦労したことはあります?
柊谷 少人数でも考え方の違いが出てきます。さきほどの共読でも最初は反対しているメンバーもいて。しかしそこも勉強と捉えています。自分が代表になって新しい方針を立てたとき、ついてこない人が出るかもしれない。そういう人のやる気をどのように引き出してプロジェクトに参加してもらうか、そういう練習をしているんだと思って。
高満 うちの場合は勉強会でベンチャー企業の方に語ってもらって、プロジェクトを進めようとしているんですが、即答して動ける町工場がまだまだ少ない。なので、同時並行でいくつかのプロジェクトを進めることができない。月に1回ベンチャーピッチをすれば、すぐ始動できると思っていましたが難しかったですね。だからまず成果を上げたいです。
中橋 成功事例が生まれれば道筋ができるからね。Garage Minatoはプロジェクトでのものづくりを目標にされていますが、それは指揮者がいないとできないこと。SAWは私を含めメンバーの多くがプレイヤーで、統率すべき指揮者が不在。これだけ製造業が集まり、しかも決定権を持つ人ばかりなのだから何かつくればいいと言われますが、それはやる気がない。
柊谷 共同受注はしないということですか?
中橋 そうですね。あと企業連携のグループを運営していく上で大切なことは、顔が見える関係でいること。仕事をまわすためには、相手の仕事内容を理解して、何か頼まれたときにすぐ顔が浮かぶような本当の意味でのつながりが大切。もうひとつは、今いる人たちを飽きさせないこと。勉強会の講師も私がやっているので、内容もみんなが興味を持つものを選んでいます。1月は「働き方改革」をテーマにしたんですが、そのために『MOBIO-Cafe』のセミナーに通って勉強し、努力も怠らないようにしています。
柊谷 僕はやっぱり「想い」ですね。月1回、忙しいなか時間を取ってプロジェクトも並行してやっているので、そこで壁に当たったときどこに立ち返るかといえば、やはり「共に学び、共に成長する」と「九条を盛り上げる」ということ。それと製造業が減るのを食い止めたいという気持ちを共有できないと、続けていくのは難しい。
高満 私は世界のものづくりの課題、町工場の課題はネットワークを組めば解決できると考えています。研究者やベンチャー企業が困っている課題に対して、町工場が一緒に形にしていく意味を実感して欲しい。単に部品をつくるのではなく、自社の技術力が結果として社会貢献になることの意味を、経営者だけでなく社員も含めて共有することが絶対に必要。その想いだけはブレないようにしたい。そうやって試行錯誤を繰り返しながら、いいチームをつくっていくことが大切だと思います。

「鐵のまち 九条」の若手後継者によるてづくり工場組合では、鉄の良さを伝える自社商品で九条をアピールする「カンバンまちfactory」プロジェクトも展開

ものづくりの楽しさを伝えることも次世代への大きな布石。

高満 今後の展開としては成果を出して結果を残すことで、「いいな」と思ってくれる人を増やすのが課題ですね。そのなかで金銭面に関しても私がマネージメントしながらベンチャーさんに掛けあって対価をしっかり払い、利益の出る仕事として受けられるようにしたい。
中橋 地域貢献もされていますよね。地元のイベントにも出展したり。
高満 子どもに向けての工場見学ツアーをやりたいんです。先日も近くの小学校でものづくり教室を開催しましたが、何が嬉しいって子どもたちが眼を輝かせて「すげぇ!」と言ってくれること「。すげぇ!」=興味を持ってくれることで、私たちの価値も分かってくれると。今、子どもたちは欲しいものに対して「買う」という選択肢しかない。そこに「つくる」という選択肢もあり、そして手伝ってくれる町工場がすぐ近くにあるんだよと伝えたい「。こういうのをつくりたいけど、どうすればいいの?」といつでも聞けるような関係性を取り戻したい。昔はありましたよね?
柊谷 ありました。うちは溶接だから「自転車のパーツが取れたから付けて」と近所の子がよく来ていました。相談するだけの関係でもいいと思っていて。僕たちも地元の小学生対象に、鉄の廃材をハンマーで叩いて模様をつけ、メダルにするというワークショップを開催したのですが、子どもって夢中になってつくりますからね。
高満 それは面白いね。
柊谷 「もっとつくりたい」という声も多かったので、余った廃材をあげようと「欲しい人いる?」って聞いたら、全員が「ハイ!」って手を上げたんです。僕らからすればただの廃材が、彼らには大切なものになった。もう素直に嬉しくて、「つくる楽しさ」って伝わると実感しました。今回は小学生対象でしたが、中・高・大学、芸術系大学とステップアップすれば完成度も上がるだろうし。これは町工場による次世代へのものづくりの取組みでもある。そういうことを伝えられたらもっと楽しいだろうなって。
中橋 私は元営業マンなので数字にこだわりたい。目標はメンバーを80人まで増やしたい。その規模になると今までのように自分だけでは厳しいので、グループとしての二次成長も考えたいですね。そこまでは突っ走って行きたい。グループの課題としては相互理解。私は全員の工場を回っていますが、ほかのメンバーはできていない。商工会議所のネットワークシートのようなものを作成して記入してもらい、プレゼン大会をして互いの仕事内容を理解できるようなものをやっていく必要があると思っています。
柊谷 僕は「鐵のまち九条」のブランディングを頑張って「、ものづくりといえば九条」と言われるくらいにしたい。その大きな目標へ辿り着くまでにも、いくつかの小さな目標があって、そのひとつが「カンバンまちfactory」というプロジェクト。クリエイターさんにも協力いただきながら、いろんな店の看板を鉄にこだわって各社で製造・販売しながら、九条をアピールしていきます。それを2025年に大阪で開催される「日本国際博覧会」で、パビリオンの看板に使ってもらうことを目標に掲げています。
中橋 大きく出ましたね。それはぜひ達成して欲しい。
高満 実現したら凄いですよね。私たちの目標はまず「成果」を出すこと。今はもうそのフェーズまできている。そのひとつとして日本財団の「海底探査技術開発プロジェクト(DeSETPROJECT)」の開発チームに参加しています。2030年までに海底地図の高精細化を目標に、技術開発をするチームに対して、5,000万円の研究開発助成をおこなうプロジェクトです。海洋調査の完全な洋上無人化を実現する調査ソリューションの開発を目的に、研究者と町工場がチームを組んでさまざまな実装実験をおこないます。
柊谷 夢のある話ですね。
高満 もちろん私たちだけではつくれないので、さまざまな町工場の技術を集結させて進めていく予定です。