MOBI6
ものづくり企業の次の一手は? 毎号6つの旬な記事で熱い「変革と挑戦」を紹介するモビロク。
現状打破のヒントやモチベーションアップにつながります。
プロフェッショナルを支える
ストーリーのある社員教育。
創業から64年、新幹線のブレーキ部品の試作品から、ダイヤモンド加工用部品、大型コンピューター用のディスク装置の駆動部品までミクロンの精度が求められる金属加工品の製作依頼が国内外から殺到する株式会社ヒューテック。転機となったのは経営革新計画への挑戦だと、藤原多喜夫代表取締役は振り返る。それは2009年の「金属加工試作品の量産簡易ライン化システムの構築」からはじまる。当時、仕事の幅を広げるためCAD/CAM化の必要性を感じていた。しかしそれは汎用機械を捨て、多くの職人の糧を奪ってきたNC機械を導入することにほかならない。そんな時代の流れに対し、差別化するにはどうすべきか「。量産品と違い、試作品を扱う当社は救急救命室のようにどんなアプローチでもいいから、ひとつのものをつくりあげるやり方。その場合はすぐれた機械、治具、そして扱う人の経験や知識が必要となる。この方法にCAD/CAMを取り入れたらきっとうまくいく」。そう確信した藤原氏は、難易度が高い工程だけをプログラミングし、現場でリアルに再現するという、「人と機械が共存できる半自動」の道を選択した。
2度目となる経営革新計画へ挑戦は、2018年の「3Dシミュレーション導入により教育時間を確保することで多能工を育成する」というもので、自動化を磨き上げ現場がそれを形づくるための教育を推進する。藤原氏はものづくりに関わる人を成長によって分類し、作業者、技術者、職人、プロフェッショナルと階段を上がり、最終的には指導者になると考えている。そのために社員の特性を見極め、一人ひとりにあったストーリーをつくりあげていく。「旬の時期を見極め、設備を変えたり新しいことをさせてみる」。自分の技術が上がることで新しい機械が目の前に現れるように、人と機械の成長がシンクロすれば仕事への情熱は尽きない。そんな社員教育をベースに会社を成長させていく「。自分が見たい風景を、いつか彼らが見せてくれるのかな」。それは血の通った「ものづくりは人づくり」を実践するからこそ言える言葉だ。
>紙面からの続き
子どもの頃から実家である鉄工所の手伝いをしてきた藤原氏は、すべて現場で感じ、体験し、全身で仕事を覚えてきた。いじめられっ子だったが、「この技術を自分のものにできれば、周りを見返すことができる」と子どもながらに思った。だからこそできないことがあると腹が立つ。うまくなるには経験しかない。旋盤を扱い、端面を引いて、いつしか刃物も自分で研ぐようになっていた。「ひたすら削り続けることでしか技術は向上しません。失敗を繰り返し、場数をこなすことで、創意工夫も生まれるんです」。そうした努力を積み重ね、「なにわの名工」にも選出された。「私には憧れるような先輩がいなかったが、自分が理想の先輩になることはできる」と教育にも力を入れる。「優れたものを創造できるのは、やはり優れた人間的感覚を持つ人であり、そのために教育はとても重要です」。藤原氏が提唱する社員教育は「6・3・3」年制と、とてもユニーク。最初の6年で技能検定などの資格修得、その後は技術を積み上げて多能工の育成を目指すというもの。机上の空論ではなく、現場で生きてきた人だからこそ、地に足の着いた教育ができるのだ。
株式会社ヒューテック
http://www.fu-tech.jp/
大阪市鶴見区今津南2-7-13 TEL 06-6961-9252