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祖父が極めた伝統の技を
最先端マシンに組み込み進化。

半月の一枚刃。ここまで細く強い刃先は珍しい。切っ先が非常に細かく、繊細なニュアンスの表現ができる。刃物も内製化しているから在庫の心配もない

よく米粒に文字を書く技がテレビなどで披露されているが、あれに近い細かさで金型を彫る技術を持ち、受け継がれた技を最先端のマシンで再現する。それが赤坂金型彫刻所の強みだ。原点となるのは、創業者である初代赤坂兵之助が確立した「赤坂式半月彫刻法」。半月一枚刃は丸棒を半分に切り落とし先端を尖らせて刃をつけており、切れ味が鋭く、切りくずが付着しにくい。そのため金属だけでなく樹脂の切削加工にも非常に有効だ。その手法に工夫や改良を重ね、精密で芸術性に富んだ射出成形金型の製造や彫刻加工、刻印製作を続けてきた。
現代表である赤坂雄大(三代目赤坂兵之助)氏は、マシニングセンタなど最新の加工機械に、この半月一枚刃を形状や刃先を最適化して組み合わせることで、曲面上への彫刻加工を容易にし、これまでにない加工や表現を可能にした。「半月の一枚刃を機械に組み込むことで、通常の刃物より7倍早く仕上がり、刃先の消耗も遅い。本当は数値化すべきですが難しくて」。仕上がりは音で判断できるという。上手く彫れている時にはラの音、切れ味が鈍いと低い音、回転が早すぎるときは高い音にずれる。その音に耳を傾け、ときには機械と対話するように調整する。
昨年から自社ブランド「cocur(コクール)」を立ち上げ、写真をもとに金属板に彫刻加工を施す商品の製作・販売を開始した。「当社の技術は非常に専門的、まだまだやっていないことは多いはず」。トレーサビリティが重視される時代、部品に情報をつめ込んだ二次元バーコードを彫刻で入れるなど、アイデアも次々湧いてくる。そんなアイデアも外へ出かけ、いろんな人と交流することで生まれてきた。「今は能動的な提案や宣伝が必要な時代。ネットで発信したり人と出会うことで面白いことができる」。マシニングセンタ1級や職業訓練指導員の免許の資格を取得する赤坂氏は、「MOBIO-Cafe」で出会った縁で今年4月から大阪工業大学に非常勤講師として教壇に立っている。「若い人が仕事に興味を持ってもらえたり、彼らと触れ合うことで自分自身にも刺激になっています」

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祖父の初代赤坂兵之助は、彫刻師としての修行のために上本町にて弟子入り後、東大阪市で「赤坂金型彫刻所」を設立。仏具や欄間、刀のツカ、ボタン、記念コインなどの彫刻を生業とした。しかし仕事中の事故で左手を失ってしまう。自作の義手をはめて仕事を再開するも、彫刻のための鏨(タガネ)を以前のようにしっかり支えることができなくなっていた。そこで編み出された技法が「赤坂式半月彫刻法」だ。「いかに少ない負荷で金属に彫刻可能か」という命題のもと、切っ先にこだわり、反力を少なくした刃先の形状や彫り方を徹底的に研究して確立された。そんな祖父の努力をかたわらで見ていた父は、その名を継いだ。そして雄大氏も昨年、「三代目赤坂兵之助」を襲名する。「父にしても自分の尊敬する親の名前ですから、かんたんには名乗らせてもらえなかった。ようやく襲名ができたのは、技術を認めてもらえたからかな」。そう言うと照れくさそうに笑った。

赤坂金型彫刻所
https://www.cho-cocu.com/
八尾市楠根町5-57-11 TEL 072-995-2853

中小企業家同友会八尾支部と有志の会がコラボでつくった「八尾えだまめクラフトビール」のイベント用に、Tシャツに刻印するえだまめスタンプも製作

世界にその名を轟かせている「獺祭」。そのキャップの刻印も手がける。他社(左)と比べると、エッジの効いたメリハリのある刻印であることが一目瞭然