MOOV,press

MOBI6

ものづくり企業の次の一手は? 毎号6つの旬な記事で熱い「変革と挑戦」を紹介するモビロク。
現状打破のヒントやモチベーションアップにつながります。

女性の身体を美しくする
黒子から身体への負担が
少ない医療機器開発へ。

ブラジャー用ワイヤーに取組み半世紀。樹脂系では変形しても戻る超弾性と復元力を備えたものを、金属系では2.5次元や3次元ワイヤーも開発

ワイヤーの進化に合わせ、金属から形状記憶合金、オリジナル樹脂まで加工技術もアップ。右の樹脂ボーンは太めの樹脂を2本編みしており圧縮力と強度がある

足袋を留める「こはぜ」の製造から出発し、戦後はいち早く女性下着の金具づくりに着手。以来50年以上ブラジャー用ワイヤー、アジャスター金具、留め具、コルセットの芯材など多種多様な部材を開発してきた株式会社オーゼットケー。メーカーの要望で金属ワイヤーをつけ心地の良い樹脂ワイヤーに置き換えることとなったときには樹脂成形にも着手。ブラジャーの進化とともに、技術力を高めてきた。しかし女性の服装がカジュアルにシフトし、ブラジャーはワイヤーレスの流れへ。
この流れに対応するため代表取締役社長の山﨑陽彦氏は、攻めの姿勢を見せた。これまで培ったノウハウを活かし、乳ガン手術などに用いる開口金具「開創器」の実用化をめざしたのだ。開創器とは手術部位の軟部組織を広げる機器。「従来の開創器では、術野確保や術野面積のコントロールは執刀医が指示して助手がおこなう。そのため執刀医と助手との連携が必要で手術時間がかかる。医療者、患者ともに負担が大きく問題視されていました」。そこで国立病院機構四国がんセンターや国立がん研究センター医師の指導を得て、伸縮性、自由度のある純アルミ製の開創器「スパイラルリトラクター」を開発。素材となるのは帯状体コイルバネをプレスした「スパイラルボーン」。女性のガードルに使われ、全方向に曲がり、折れにくく、錆びないという性質を持つ。これを開創内部に挿入することで、執刀医一人でも開創器を自在に動かしながら手術できる。結果、手術時に必要な医師の数が減り、時間短縮にもつながったという。
この成果により、近畿経済産業局の2019年関西ものづくり新撰に選定され、医療関係の案件が持ち込まれるようになった。またインナーウエアの事業でも新しい挑戦は続く。三井化学株式会社の新素材、形状記憶シート「HUMOFIT(ヒューモフィット)」の商品化のために開発段階から関わっている。これは体温を感知して、触れたカラダをやさしく包みこんでくれるシート。ブラジャーに使用することで、フィット感をアップさせる。コア技術を新分野へ活かせる開発力で、これからも道を切り拓いていく。

>紙面からの続き

下着に身体を合わせていた時代から
身体に下着を合わせる時代まで。


日本では1929年に「乳房バンド」が誕生するも、世の中はまだ和装文化は寸胴であることがよしとされた時代。バストを目立たせる発想がなく、普及には至らなかった。時代は移り、大手下着メーカーが最初にブラジャーを販売したのは1950年のこと。戦後復員したオーゼットケーの創業者がアメリカの通販カタログで女性下着のバリエーションに着目し、同社を訪問して部材の提供を取りつけた。以降クリスチャン・ディオールが発表したニュールックに代表されるウエストを絞ったエレガントなファッションを日本人女性が楽しむようになるのと同時に、それを美しく着こなすためのブラジャーが市民権を得て世に広がっていく。
さらに機能性を高めるためブラジャーにワイヤーが用いられるようになり、同社の業績も順調に伸びていく。ワイヤーレスブラが人気となった今も、新素材の形状記憶シート「HUMOFIT」を使用した製品の実用化に関与するなど、ブラジャーの進化の歩みと同社の歩みは今も切り離せない。


株式会社オーゼットケー
https://ozk-inc.co.jp/
八尾市南植松町4-23-1
TEL 072-991-3671

大学医学部との共同研究から心臓手術に使う錫製の開創器「フレックスパンダー」も開発、商品化。使用後は付属のローラーで伸ばして形を戻し、リユース可能

切開創に挿入して、全周的な視野を確保するスパイラルリトラクター。自由に変形させてもその状態を保持でき、手術の状況に応じた術野変更や面積の拡大縮小を実現