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ものづくり企業の次の一手は? 毎号6つの旬な記事で熱い「変革と挑戦」を紹介するモビロク。
現状打破のヒントやモチベーションアップにつながります。

スピード感×企画力
繊維素材のオーダーメイドを武器に。

表紙のデザインから社内で制作した見本帳。それぞれの糸を組み合わせるとどういうものになるかひと目で分かる。ここにない組み合わせも、翌日には糸を撚り合わせて編地になった状態で見せられるというスピード感も

素材の良さを贅沢に感じてもらえる、モンスターオンスTシャツは生地がケタ違いに分厚い。ゼロトルクの糸で型崩れを防ぎ、表面に炎が当たっても燃え広がりにくく、引っかいても糸のほつれを起こしにくいなど、強度は抜群

国内外の大手アパレルメーカー向けにニット製品用の糸を提供するエップヤーン有限会社。代表取締役の筒井利彦氏の祖父が船場で糸の会社を経営しており、それを継いだ父が独立して2000年に東大阪で創業した。同社の特徴は糸を顧客のニーズに合わせてアレンジできる点にある。たとえば何色もの糸で撚り合わせるなか一色の糸だけ太くする、あるいは一色だけ素材を変えるなど組み合わせは幅広い。それによりデザインや風合いなどの表現も変幻自在にできる。社内には本生産の現場でも用いられる試験撚糸機、いくつかのゲージの編み機、ワインダー(糸を巻き上げる機械)などサンプル糸をつくるための一連の機材を揃え、ニーズに迅速に対応。繊維素材のオーダーメイドとして常に新しい素材をつくり出し、提案もするという。細かく分業化された繊維業界で、原材料の選定から設備、撚糸のアレンジ方法まで考えぬき、生地と合わせたときの見え方も含めて企画提案できる会社はほとんどなく、大きな武器となっている。
Tシャツの型崩れや縮みの原因は糸がねじれようとする力によるもので、同社では創業以来、このねじれをゼロにコントロールする「ゼロトルク撚糸」の技術を磨いてきた。これまでは高級衣料のために使ってきたが、これを用いて丈夫で型崩れせず、着心地のいいTシャツをつくろうと、2017年には高品質Tシャツブランド「東大阪繊維研究所」を立ち上げ、本社内の直営店で販売している。そこにはニットセーター用の糸づくりで培ってきた技術と知識をフル稼働してつくられたアイテムが並ぶ。
直営店は花園ラグビー場のお膝元とあって、ラガーマンもよく訪れる。元神戸製鋼の南條賢太氏との出会いもここから。話すうちに「ラガーマンをかっこよく見せる」をテーマに新商品を共同開発し、ラグビーを通じて子どもたちの心を豊かにする南條氏の活動への協力にもつながっていった。「スポーツとは無縁だった自分が、Tシャツを通じてラグビーの世界を知ることができた。これからもうちのTシャツがものづくりのまち東大阪で、いろんな人とつながるコミュニケーションツールになれば」

>紙面からの続き

得意なもの、好きなものを極めて
ものづくりを躍進させる。


エップヤーンは2019年、現在の場所に工場を引っ越した。新しく名刺つくり変えようというときに、社員から「もっと個性的なものにしたい」という提案があった。そこで筒井利彦代表取締役は、まずは自分の名刺にこれまで趣味で描いてきた絵を入れてみる。描かれたのは35×35cmの小さなポータブル撚糸機。「最初はこの機械しかなかった、思い入れがあったので入れてみたんです」。これが社員に大好評。それぞれが好きな機械や、その機械がいちばんかっこよく見えるアングルなどを主張して、全員違うイラストの名刺となった。どれもこれも機械愛が溢れている。
以来、自身の絵を活かしていこうと、現在ではカタログの表紙なども手がけている。そしてTシャツブランドを立ちあげてからは、筒井氏が子どもの頃から愛してやまないウルトラセブンのTシャツを円谷プロの監修のもと製作。「ゼロトルク撚糸」を使って、丈夫で型崩れせず、着心地の良いTシャツもキャラクターも気合たっぷり、自信を持ってつくりあげた逸品となっている。
「クオリティを追求していいものをつくる」ことが軸足としてブレないから、その範囲を特撮ヒーローからラグビーまで広げていけるのだ。


エップヤーン有限会社
https://www.eppyarn.co.jp/
東大阪市菱江2-3-32
TEL 072-968-8615

南條賢太氏は神戸製鋼で2度の日本選手権優勝後、プロ契約選手となり2010年に引退。現在は出身地でもある東大阪市で、小学生たちにラグビーの楽しさを伝える活動を続けている