危機感こそがチャレンジの原動力。“やってみるか”の精神で躍進

成功のツボ

挑戦:金型製造業からCAD、STLデータ加工に挑戦
成果:累計2万個のヒット商品を産み出す

金型メーカーが独自技術を身につけ、自社のオリジナル商品を開発・販売するまでの経験を通じて、新規事業を軌道に乗せた日清精工。自社の資源を磨き、さらに目に見えない知的資産の活用で強みを強化できた好例だ。

「やる気、技術、人材」パズルのピースが揃った瞬間、光が見えた

 バラをあしらった華やかな『つけまケース』。この若い女性の琴線に触れる雑貨を生んだのは、金型製造業という、ともすれば無骨な現場。それは創業以来、金型一筋で歩んできた同社の起死回生の一打だった。

DFDによる金型シボ加工を手がけるようになって、現場の技術力もアップしたという

 会社を引き継いで3年目、岩谷清秀社長は悩んでいた。注文があって成り立つ金型製造は、世界的不況や新興国の台頭、工場の海外移転などもあり、受注量は激減しており、これまでの待ちの姿勢では、ジリ貧になるのは見えていた。
 「どうすれば突破口が開けるか、模索し続けていました」と岩谷清秀社長。生き残り策として可能性を見出したのは“技術の高度化”。業界でも珍しい3D-CADの「フリーフォーム」を導入した。これは画面の3次元モデルにペン型のデバイスで直接触れることのできるモデリングツール。扱うのは右田和代総務部長の娘さんで、当時は美大に通いながら同社でアルバイトをしていた。

 「自社ブランドをつくること、それはものづくりに関わるものなら、誰しも一度は思い描く夢。社員も危機感は感じており、そこに最新鋭の機械と美大生の女性スタッフが加わり、人と技術がマッチした。これを金型に置き換えられたら、未来は変えられるかもしれない」。暗闇に一条の光が差した気がした。

先端技術×積み重ねてきたノウハウ=オンリーワンな技術の誕生

 このツールの活用法として目を付けたのが、金型のシボ加工。同社がデジタルフリーデザイン(DFD)と名付けた加工技術は、写真や絵をフリーフォームでシボ柄に図面化して、得意の切削加工で彫刻するような感覚で細工していく。
 化学処理で腐食させていた工程が省かれ、工期やコストを大幅にカット。STLデータとして保存するため、同じ柄の拡大・縮小の加工依頼にも即対応できる。しかも量産の金型に施すため、何万個打っても模様は潰れない。本業で培ったノウハウと先端設備を融合させた、独自の技術が生まれた。

表面が細やかで立体的に切削された金型。他の企業にはない同社だけの独自技術だ。蓋の表面に施された可愛い花柄のエンボス加工は、DFDの強みをいかんなく発揮するもの。スマホカバーケースは、フルカラー印刷を手がける塗装企業の協力を経て、商品化された

 2009年、DFDは大阪府の中小企業支援事業「経営革新計画」に認定された。ところが新技術をアピールしようにも製品がないため、魅力を伝えづらい。ならば、と自社商品の開発へ舵を切る。
 社内でアイデアを募ったところ、女子大生が思いついたのが冒頭の「つけまケース」だった。男性陣の想像を遥かに超えていた。「細密な寸法を扱う金型の設計や製造は熟知していても、感性を必要とする部分は苦手でした。ましてデザイン性を求められる仕事は未知の領域で」
 この商品のニーズを求め、店舗リサーチや約200人の女性へのヒアリング調査を重ね、商品を完成させた。企画から完成までわずか半年。現場も一致団結していたが、ひとつ忘れていたことがある。販路開拓の難しさだ。

自社商品開発の取り組みが、DFDという新たな経営の柱に成長。

岩谷清秀社長と右田部長取締役。「商品をつくるのに一番お金がかかり、品質の肝となるのは金型です。うちはそこを一番安く、もっとも高品質なものがつくれる。だからメーカーになるのは必然なんです。とはいえメインのビジネスはやはり金型製作。それを今度は海外展開していこうと考えています」(岩谷社長)

 「ものをつくるほうが難しい、だからいいものをつくれば売れる」
 だが現実にはそうもいかなかった。そこで卸売業に狙いを絞る作戦へと方針変更。これが幸いし、東京インターナショナル・ギフト・ショーへの出展にこぎつけ、そこから東急ハンズやドン・キホーテでの取り扱いが決まり、つけまケース「マリー・アンジェラ」は、累計1万個を売り上げるヒット商品となった。
 同社はその後、MILCA(ミルカ)事業部を立ち上げ、企画からデザインやパッケージまで内製化できる体制を整え、スマートフォンケースや、つけまつげ&コンタクトレンズ収納ケースなどをたて続けに発売。この頃から、DFDによる金型シボ加工のメリットが認められ、本業である金型の受注が増え始める。また設計から一貫製作できる体制が整ったことで信頼性が増し、大手企業からもOEMの受注が入るという相乗効果も生んだ。
 今やMILCA事業部の生み出す商品と精密金型の加工技術は、同社発展の両輪となっている。

ブレイクタイム

Q

社内の人間関係を良くするために、気をつけていることは?

A

自分が一番早く出社するので、毎朝、自分から「おはよう」と声をかけています。
基本姿勢として押し付けたり、強要しない、というのは常に心がけていますね。あと社員の誕生日には、食事券をプレゼントしています。

Q

休日の過ごし方は?

A

お客様とゴルフに行くことが多いですね。昔は苦手だったんですが、「どうせやるなら上手くなりたい」と、練習するうちに趣味になりました。上手くなると自信もつきますし。

企業概要

企業名
株式会社日清精工
コア技術
STL、デザインからの金型製作
代表者
代表取締役 岩谷清秀
住所
〒577-0835 東大阪市柏田西1-11-2
電話番号
06-6727-3717
企業紹介
http://www.m-osaka.com/jp/takumi/3059/
企業HP
http://www.nissinseikou.com/
資本金
7670万円
従業員数
15名

認証:大阪ものづくり優良企業賞2010、平成23年度経営革新計画