「ライフスタイルに合わせたフライパン」という新しい価値の創造

成功のツボ

挑戦:自社オリジナル商品のブランディング
成果:自社商品の価値を上げ、売上を大幅に拡大

世界にひとつ、自分だけのフライパンを作ることができる「フライパン物語」は、480通りの組み合わせから選ぶことができるオーダーメイド方式のフライパン。
フライパン物語HP http://frying-pan.jp

カスタマイズできるフライパンは、自社にしかつくれない製品。

2015年9月、東京ビックサイトの『ギフトショー』で発表、販売からは1年半。このわずかな期間で、一気に知名度を上げたのが、藤田金属の「フライパン物語」だ。オーダーメイド方式で選択肢は実に480種、使い手に寄り添った世界にひとつのフライパンは、定番商品だけでなく、企業からオリジナル商品の受注やアジア各国への輸出も増えた。これは1個からでもオリジナルがつくれるメリットを持ち、バリエーションの豊富さから。他社商品とバッティングしないため、値崩れもない。

「新しい試みとしてもう一度、大阪製に選ばれるような商品を開発したいですね」と藤田盛一郎専務。今後は外部のデザインを取り入れて、SNSで発信したくなるようなデザイン性の高いフライパンを企画している

この商品のアイデアを産んだのは、専務取締役の藤田盛一郎氏。大学卒業後、家業である同社に入社したのはデフレの真っ只中だった。「当時は日本製であることの価値が今ほど高くなく、営業に行っても値段しか聞かれない。丁寧につくり上げても、そこに価値を見出してもらえず、まるで夢のない状態でした」。
転機が訪れたのは遡ること6年前。商品開発に着手するなかで、まずはターゲットをこれまでのホームセンターや量販店から、百貨店や専門店へシフトさせた。そのとき生まれたのがアルミのタンブラー。熱伝導がよく、口当たりも良いとヒット商品となる。そして次に浮かんだのが、「カスタマイズできるフライパン」だ。現在、国産フライパンをつくる会社は、国内に10社も残っておらず、それらのメーカーは量産型であり、さらに鉄とアルミの自社生産ができるのは同社だけ。「だから鉄とアルミのメリット・デメリットを理解して伝えることもできる。これはうちでしかできない商品だと確信しました」。

ライフスタイルに合わせた提案が、ブランディング成功の秘訣。

自社製品をブランディングする。多くのものづくり企業が挑み、販売という未知領域でつまづくことも多いこの課題をどう成功に導いたのか。このブランド化に対して父であり代表取締役社長の藤田俊介氏は面白いと賛成してくれた。まずはストーリーづくり。
1アイテムに対してサイズや内面加工、外面カラー塗装に持ち手まで数多くの選択肢から組み合わせ、世界にたったひとつのマイフライパンをつくれるようにした。そして「鉄のフライパン=育てるフライパン」であることも打ち出す。「きちんと手入れをすれば、油が馴染んで焦げつかなくなる。そして何10年と使えて手に馴染んでくるんです」。自分で手入れして育てる楽しさを伝え、これまでとは違った視点から光を当てることで、自社商品の価値を上げた。
次は販路だ。実店舗で値段だけ書かれ、ほかの商品と並べられたら良さがまったく伝わらず、結局価格で選ばれてしまう。だから「謳い文句が書ける」店舗である通販と生協にターゲットを絞った。これにより消費者に商品のイメージや、メリットやデメリットまで伝えられ、使い方などを強く訴求できる。また使う人やシーンによって、求められるフライパンは違うはず。そんなライフスタイルに合わせた提案も込めた。リーフレットを作成して営業していくと、テレビショッピングでオリジナル商品をつくりたいという注文が入った。
それ以降、多くの通販番組で取り扱われ、瞬く間に大ヒット商品に成長。「大阪ものづくり優良企業賞2014」を受賞し、2016年度の大阪製ブランドにも認定された。

毎日使うものだから、使う人の声を反映させていきたい。

錆びにくく、焦げつきにくいハードテンパー加工は藤田金属オリジナルの技術。本体を一つひとつ約700℃ぐらいで焼き入れ、その後油に浸すことではじめから油が馴染んだ状態に。引き上げるタイミングは大きさや厚さですべて違っており、焼きが甘いと錆の原因になり、焼き過ぎると表面が割れてしまう

ところでクリア塗装の鉄フライパンは、空焼きや油ならしといった焼き入れをしないと使えない。しかしIHやガスのSIセンサーは、空焼きをしていると自動で熱源が停止してしまう。そのため購入者から「きれいに塗装を剥がせない」という問い合わせがきた。そこで試行錯誤して、本体を一つひとつバーナーで真っ赤になるまで焼いて油を馴染ませるハードテンパー加工にたどり着く。空焼きが不要となったことで、また評価も高まり一人の顧客が何種類も購入するようになる。さらにこの頃から日本製の持つブランド力の再評価、スキレット人気が高まるなかで家庭用サイズを求める人が増えるなど、時代の追い風もあった。
同社の創業は1951年。フライパンをはじめ台所まわりの金属製商品をつくり続け、2017年で創業67年を迎える。多くの現場で高齢化が進むなか30代が一番多く、「人材では困っていない」と自信を持って語る。今も現場で要となる金型製造をする父、企画・宣伝を担当する長男の藤田専務、次男はこの商品の特徴ともいえるハードテンパー加工やへら絞りを担当、そして父から金型の技を伝承される三男。フライパンという家庭的なアイテムにふさわしい家族の絆によって、企業としての基盤はより強いものになってきた。

2017年9月に横浜タカシマヤで開催された「フライパン・セミナー」。使う人が何に悩んでいるかを直接探れるセミナーには大きな手応えを感じている。「参加者の皆さんから寄せられる質問にはものづくりのヒントが多くあり、ぼくたちにとって宝のようなものです」

最近はセミナーもおこなっている藤田氏。そこでのやりとりに次の商品の開発のヒントが隠されているという。顧客の求めに応じて、さらに軽い鉄フライパンや逆に蓄熱性の高い重いもの、板厚のバリエーションまで増えていく。「会長である祖父が金型をつくる機械をはじめ設備を整えてくれ、それを土台として新たに『フライパン物語』があって、今に至りました。近く迎える70周年には、社屋もリニューアルをしたい。そして会社を百年企業にして引退したい。それが今の夢ですね」。

ブレイクタイム

Q

歴史のある会社ですが、守るべきものとブレークスルーすべきものを教えて下さい。

A

守るのべきものは従業員とその家族が第一、機械類もそのひとつです。変わるべきものは、時代にあったものづくり。そのために時代にそぐわないものはリニューアルしたりする必要もあると考えています。

Q

フライパンが人気商品ですが、みなさん料理は得意ですか?

A

社長である父は会社を継がなければ、プロの料理人になりたかったというくらい料理が好きなんですが、ぼく自身はカップラーメンぐらいしかつくれません(笑)。

企業概要

企業名
藤田金属株式会社
コア技術
ヘラ絞り加工
代表者
代表取締役社長 藤田俊介
住所
八尾市西弓削3-8
電話番号
072-949-3221
企業紹介
http://www.m-osaka.com/jp/takumi/7097/
企業HP
http://www.fujita-kinzoku.jp/
資本金
1,000万円
従業員数
20名

認証:大阪ものづくり優良企業賞2014、大阪製ブランド2016、おもてなしセレクション受賞2017年