大手企業の方法論を、中小企業のスピードで実践する。

成功のツボ

挑戦:知財サポートチームを活用し知財相談
成果:「大阪ものづくり優良企業賞2014」受賞

株式会社マーベックスは、快適・健康で環境にも優れた住空間を創るシステムやサービスを提供する企業。2001年創業と歴史は浅いが、企画・開発に注力したものづくりと市場を的確に見抜く力で、大きな飛躍を遂げている。

エコロジカルなシステムで、快適で健康な建物をつくる。

 人間は一日に20kgの空気を体内に取り込むといわれ、これは日の食事量の10倍にも相当する。最近では花粉に加えてPM2.5などによる健康被害も心配されており、きれいな空気を吸うことが、水や食べ物と同じように意識すべきこととなっている。そんな空気や環境にこだわったものづくりをしているのが、株式会社マーベックスだ。55歳で脱サラし、会社を立ち上げたのは代表取締役の本田善次郎氏。設立当初は断熱材を製造していたが、ある時「これからは地球環境の時代だ」と考えるようになった。だから同社の理念は「More Amenity and Healthy Building by Ecological System」。すなわち「エコロジカルなシステムによって、より快適で健康な建物を作る」ということ。社名も理念の頭文字から取られており、その考えのもとに生まれたのが24時間全熱交換型換気システムだ。

通常、誰もいない空間にある二酸化炭素濃度は約400ppmそこに人が4、5人ほど入るとわずか30分ほどで一気に1000ppmまで上昇する。会議などで眠くなる原因も、この二酸化炭素濃度の上昇にあるという

 2003年の建築基準法の改正により、すべての新築住宅に24時間換気が可能な換気設備の設置が義務化された。これは大きなビジネスになると考えた本田氏。「換気に関しては素人であったが、世間にないもの、お客さんが本当に欲しいものをつくれば必ず売れるという確信だけはあった。そこで情報を集め、研究や実験、試作を重ねて3年で商品化に成功した。これ以降も「世の中にないもの、あったらいいな」と思うものを自ら企画、開発し続けている。部材に関しては東大阪のものづくりネットワークをフル活用する。30社以上の協力会社と提携し、社内では組み立てるだけ。それらの会社はネットや口コミを頼りに自分で調べ、連絡を取って構築したという。
 現在はMOBIOに頻繁に通い、さらなるネットワークを拡大中だ。そうやって企画、開発に集中できる環境を整えた結果、2001年の創業から16年間で、特許出願した数は25件にのぼり、「ものづくり優良企業賞」知的財産部門賞も受賞している。とにかく新しいもの、世間にないものを商品化してきた。業界においては最後発ではあるが「一番を取らないとダメ」という考え方で突き進んできた。「社名は私の使命そのもの。これを叶えられるものなら商品はなんでもいいんです」

「換気扇は上につけるもの」。そんな常識を疑うことから始まった。

世界トップクラスの熱交換素子

 さて、その換気システムだが、主力製品の「澄家(すみか)」シリーズは住宅の床下に設置するダクト式全熱交換型換気システム。現在では業界最高レベルの90%の熱交換性能を有し、特に夏と冬における空調機器の冷暖房の省エネルギー効果を高め、ユーザーからも高い評価を得ている。これは外の空気をきれいにして室内に取り込む換気と空気清浄を同時におこなうもの。その際に熱交換をするので、たとえば室内が20度で外気が0度の場合、取り込まれる空気は熱回収をして18度になっているため寒くならず、室内の二酸化炭素濃度も下げられる。

花粉や埃などのハウスダストは床上30cmを浮遊する。高気密・高断熱な住宅は24時間換気が必要だが、排気口が壁や天井の高い場所にあると空気の汚れや塵、アレルゲンは床付近に溜まってしまう。それを防ぐため、床面に設けた排気口からハウスダストを巻き上げずに換気する、画期的なシステムを開発

 また設置場所も同社の特徴。先ほど一般的には換気扇が家の中で上の方に付けられているが、マーベックスの場合は床下取り付け。外気を床下に取り込み、床下空間で空気が循環し、室内給気口・アンダーカットを通過してきれいな空気が各部屋に送り込まれる仕組みだ。それにしてもなぜ床下なのだろう。「ハウスダストは床面から30cm以下のほうが濃度が高いからです。ホコリ・花粉・臭気は床面に溜まりやすいのですが、従来の壁や天井に設置されている換気システムだと床面に溜まったものを、人が呼吸をしている空間まで巻き上げてしまうため、逆効果。だから床面からホコリを吸って、上空にきれいな空気を出す空気清浄機が必要になってくるんです」。同社の換気システムは床面に付けられるので、空気清浄機と同じ機能を発揮できるというわけだ。
 人間と健康に大きな影響を与えるハウスダストの除去を優先するならば、床面排気がベストだと考え、このシステムをつくりあげた。自身の研究と実験に基づく理論だが、それが数年後、建築学会の会長も務める東北大学、吉野建教授の実験でもみごとに証明されている。そのような画期的なシステムだが、国内でも場所によって求められる内容は違い、当然構造も変わってくる。今年1月には寒冷地域での販売前の実地検証のために、北海道まで出向いた。「友人の家に2週間滞在し、マイナス15度の環境でも新しい熱交換システムがうまく作動するかを試しました」。このような徹底したユーザー目線のものづくりが、常に品質を高めていく。

「いいものをつくれば売れる」。そんな考えに縛られてはいけない。

日射熱最大84%カットする外付けオーニング「楽々(らら)シェード」は、視界や通風を遮らずに夏の日射を外部で遮蔽する。室内から施工できる画期的な商品で、片手で開閉可能。角度も簡単に調整できるから、日よけにも目隠しにもなる

 「同じ商品に5年以上しがみつかない」。それが本田氏の信条だ。だから毎年新しいものをつくる。会社を立ち上げる以前は大手企業に33年間在籍した。「ものづくり企業とは違い、大手企業では企画、開発、試作して自社で量産するか下請けに出すかを秤にかけます。独立した今も、部材の製造は外注して当時と同じようやり方をしているだけ」。アッセンブリ以外はファブレス。装置や設備がない身軽さゆえに、投資に対する回収の必要もない。ダメだと思ったらすぐ次にいける。
 そこで必要となってくるのは市場を見抜く力だ。行政や大学の動きを観察して市場を見極め、今後なにが求められるかを考えて開発を始める。技術職は独立する人が多い。しかし、みなが本田氏のように上手くいくとは限らない。その理由についてたずねると、技術屋には欠点があるという。「いいものをつくれば売れる」という発想だ。そこには市場の読みが欠けている。「いいものだからといって、必ずしも売れないのが現状です。大手企業にはマーケティング専門の部門がありますが、中小企業にはそんな余裕はない。ではどうするか。私はとにかく人の話を聞く。自分が秘密を持たなければ、相手も心を開いて情報を話してもらえる。情報を得たらとにかくすぐに取り掛かる。このスピートが大事。中小にあって大手企業にないものはスピードですから」

実験室に隣接する工作室。「工作と実験だけは必ず自分でやります」という本田氏。アイデアがひらめいたら、すぐにこちらにこもって手を動かす

 市場を見抜く力と長年培ってきたスキルやノウハウをもとに、メーカー側の論理ではなく顧客側の論理から技術や商品の開発をおこなってきた。「ものづくりでは大手企業に負けたくない。性能では負けないものをつくる。それを続けることが、私たちの生き残る道。あと最初から儲けようと思ったらダメです。世間に喜んでもらえることを考えて頑張れば、いつか自然と儲かりますから」。儲けることを第一に考えると、つくるものが似たようなものばかりになってしまう。「真似されても、真似するな」。これもモットー。真似するということは二番煎じ、三番煎じということだから。常に一番を目指す本田氏らしい言葉だ。将来的には海外での販売も視野に入れている。すでにそれを見越して、国内だけでなく海外での特許も取得した製品もある。「海外でも、やっぱり勝って一番を取らないないとダメです」

ブレイクタイム

Q

頭の上がらない人はいますか?

A

いませんね。サラリーマン時代から人の言うことを聞かいないことで有名だったので(笑)、ずっと技術畑にいましたが、上司から具体的なテーマを与えられた経験もない。大きなテーマのなかで、自分なりに具体的なテーマを探して提案し開発してきた。だからサラリーマンでいようが、独立しようがやっていることは変わりないです。

Q

休日はどのように過ごされていますか?

A

毎週土曜日は1年中テニスをやっていて、夏でも冬でも4時間ほどコートを駆けまわっています。日曜日は妻とショッピング。旅行も好きなので、年に1度は夫婦で海外にも出かけます。今年はオーストラリアへ行く予定。

企業概要

企業名
株式会社マーベックス
コア技術
熱交換型換気装置の設計・開発
代表者
代表取締役 本田善次郎
住所
東大阪市吉田本町2-3-30
電話番号
072-962-3787
企業紹介
http://www.m-osaka.com/jp/takumi/7068/
企業HP
http://www.mahbex.com/
資本金
1500万円
従業員数
55名

認証:大阪府ものづくり優良企業賞 大阪府知的財産部門賞受賞(2014年)、ISO9001認証取得(2015年)、東大阪商工会議所「会頭賞」「日刊工業新聞社賞」受賞(2016年)