伝統建具の古き技術を現代の生活に合う形で残し、繋いでいきたい。

成功のツボ

挑戦:消費財支援事業を積極的に活用
成果:新しい木工商品の確立、本業の充実。

大阪市平野区で木製建具の製造販売をおこなう種村建具木工所では、連日のように受注対応に追われている。建築不況が叫ばれるなか、工場、現場ともフル稼働という好調の秘訣は自社の技術を信頼したうえでの、消費財支援事業の活用や積極的なPRにあった。

“待ち工場”から脱却するために、夫唱婦随で走りだす。

 かつて大阪は古くから商家が立ち並び、実用性とデザイン性を兼ね備えた木製建具や造作家具の需要が大きい場所であった。しかし時代の変化とともに需要は減り、注文数は激減している。平野区に残る「喜連環濠地区」は、中世から続く濠に囲まれていた環濠集落。この歴史ある町で建具をつくり続ける種村建具木工所も、バブル期以後は下降の一途をたどる受注難に悩まされていた。

「おおさか地域創造ファンド地域支援事業」として開発した、ペットと暮らす間仕切り戸「NEKOMA」。無双窓、猫間障子、雪見障子といった伝統的な構造をもとに、現代の生活に必要な「ペット対応」の建具として開発

 さかのぼること数年前、そんな状況を危惧した代表取締役・種村義幸氏の妻貞子さんは、すがる思いで大阪商工会議所に入会し、ITや経営について学ぶ。そこで「町工場は“待ち工場”になったらダメ」という言葉に出会い、自分から動く決意をしたという。まずはWEBサイトを立ち上げ、商品を撮影しては少しずつコンテンツを増やしていった。いっぽう種村氏は仕事が終わってから、自分なりに組子細工に取り組み始めた。こちらには建具と家具双方に優れた熟練工がおり、種村氏曰く「それらの技術を組み合わせた、付加価値の高い製品を顧客に提案できるのが強み」だと語る。
 これまでは経理面しか携わっておらず、家業のものづくりに関して現場に踏み込むことのなかった貞子さん。しかし自社サイト用に写真を撮影するようになって、あらためてその技の凄さ、でき栄えの美しさに感動した。「見ているだけでワクワクして。この素晴らしい技術をなんとか、みんなに伝えたいと思うようになったんです」。いわば貞子さんの視線は、一般ユーザーに近いものだっだ。それが功を奏した。種村社長に伝統の技術を残しながらも、木製建具の認知度を上げるための新商品開発を提案する。
 それが起死回生のオリジナル商品、「彩り障子」だ。この彩り障子は、白無地の格子に色とりどりの和紙をパズルのように自由に入れ替えができるというもの。障子は掛け障子が原点ゆえに、色紙を入れるというのは建具の世界では邪道。しかしもはや常識にとらわれていては、“待ち工場”から脱却できない。貞子さんに色彩構成や素材となる和紙の選定を任せ、種村氏は木組みの技術,和紙の美しさを最大限に活かした障子づくりに専念した。

外部から受けた刺激を持ち帰り、新しい発想へと転換。

「障子には白い障子紙を貼る」という既成概念から抜け出した彩り格子。豊富なデザインバリエーションとカラーコーディネート、障子と和紙が織りなす美しい光と影の世界が、ここにしかない和モダンな空間をつくりだす

 次なるステップとして、この彩り障子の商品開発をテーマに大阪府の「経営革新計画」に申請した結果、承認を得る。さらにWEBサイトや展示会で彩り障子をお披露目をしたところ、全国から問い合わせや注文が舞い込んできた。2012年には府認定の大阪のこだわりのものを集めた『大阪ミュージアムショップ』に、「伝統の麻の葉文様六角箱」を登録。そして彩り障子が2013年度の「大阪製ブランド」に認証。その後も彩り障子はテレビのCMに使われたり、NHKの番組に取り上げられたりもして、認知度を上げている。
 注目を浴びると同時に展示会に出すことで外部との接触も増えた。展示会を駆け巡り、WEBサイトやSNSでの発信と八面六臂に活躍する貞子さん。その原動力をたずねると「とにかく好きだから」と笑う。「『大阪ミュージアムショップ』や展示会、そこから広がるものづくりの輪に入ることで、数多くの熱い人たちに出会いました。伝統工芸だけでなく展示会で出会った仲間が頑張っている姿を見ると、自分も頑張ろうと思えるんです。それと私が本当に自社商品が好きで、一生懸命に話すから、みなさんも耳を傾けてくださるし、購入にもつながっていくのかなと思います」

昨年10月、喜連音楽祭でお披露目された木製灯篭は、毎月1日、15日の天野茶屋でも飾られる

 さらにMOBIOにも「こんなことをしたい」とことあるごとに相談。さまざまなものづくり補助金や地域創造ファンドをうまく活用することで、仕事の裾野を広がっていき、そして本業の受注にも大きく貢献することとなる。そうした挑戦が地元でも注目を集め、最近では地域でおこなわれる「灯火の夕べ」のための灯籠製作を依頼された。種村氏曰く「灯籠は、うちでいえばどちらかと言うと家具の領域。建具屋なので灯籠なんてつくったことがなかったので、丹波篠山まで出向いて、いろんな灯籠を見てまわりました。それと今回の依頼をきっかけに、地域のことも考えるようになりました」(種村氏)。

伝統の木組み技術を使った建具を現代に、そして未来へと続く形へ。

組子細工を生かした新しい木のプロダクト「リーフ」は、木の葉をモチーフにしたオリジナル組子。光が入ることで透かしのレリーフのようになり、美しいシルエットも床に落ちて、いろいろな角度から楽しむことができる

 現在、同社の商品プロデュースやデザインを手がけるナカジマミカさんと知り合ったのも展示会。「ナカジマさんは組子のコースターをつくっておられて、とても素敵だったのですが、その時はデザイナーとどのように組んだらいいのか分からなくて」〈貞子さん〉。その後、大阪府の勉強会でデザイナーとの協働を提案されて、ナカジマさんと再会。以降、心強いパートナーとなる。デザイナーと組むことで、刺激も大きかったと種村氏は言う。「私たち職人は“建具というのはかくあるべし”という前提でつくってきましたから、常識を覆すような提案をされて最初は驚きの連続でした。でもだんだん面白くなって(笑)。つくづくデザインの力って凄いと思いますよ」
 種村氏がこれまでてがけてきた大阪格子戸や無双窓、親子格子戸などの伝統建具には、古くから伝わる卓越した技術が詰まっている。それを現代の生活に合う形で残し、繋いでいきたい。昨年「おおさか地域創造ファンド地域支援事業」で開発した商品は、この想いを叶えるものとなった。新しいデザインを加えながら、本業に引き寄せる商品がつくれたので大変満足しているという。

家具製作も得意な強みが活かされた〈imadoco〉シリーズの〈okidoco〉。「飾る」という機能に焦点を絞り、無駄を削ぎ落したミニマムなデザイン。あくまでシンプルな佇まいで、置いた場所が「床の間」の役目を果たす

 これは日本の気候風土に合わせた機能的な技術や、優れた先人の知恵を現代の生活の合う形で残し繋げるために、無双窓、箱箪笥、雪見障子・猫間障子などの機能を持つ障子の伝統的要素を取り入れたもの。多くの伝統工芸が衰退する原因は、伝統や歴史だけに価値をおくからだ。これではせっかくの技がもったいない。もっと広い視点で、何が人を心地よくさせるかを考え、時代に合ったものへと進化させてこそ、伝統の継承へとつながる。まさにそれを実証したカタチとなった。また最近では〈TANEMOKU〉ブランドもスタート。今年に入ると伝統木組みと洋家具を融合した新しい床の間〈imadoco〉シリーズの〈okidoco〉が、2度目の大阪製ブランドに認定された。
 WEBに掲載する施工事例が客さんを呼び、本業の発注も増えた。工務店をはじめ基本はあくまでBtoBだが、WEBサイトには大手商社や個人から発注がかかることもある。またハウスメーカーからの問い合わせも増えるなど、これまでになかった販売ルートも生まれてきている。次の一手としては生産体制の確立。若手の採用と人材育成、割付までできる機械の導入も考えている。「今が勝負どころ」と語る貞子さん、まだまだ〈TANEMOKU〉の快進撃は続く。

ブレイクタイム

Q

休日はどのように過ごされていますか?

A

夫婦で神社仏閣巡りですね。以前は一緒に神社仏閣巡りをしても社長だけが、夢中になって見てまわっていましたが、最近では私も視点が変わって、つぶさに見るようになりました。最近は地元のお寺が凄くて驚きました。普段入れないお堂を見せていただいて、欄間の精巧な作りに感激しました(貞子さん)。

Q

仕事の後の楽しみや趣味はありますか?

A

私は映画が大好きで、ある年の年末、大掃除の途中に抜け出して一人日本橋まで出かけてプロジェクターを抱えて帰り、妻に呆れられたことも(笑)。自宅ではこれに7.1サラウンドのスピーカーを付けて、大迫力のホームシアターを楽しんでいます(種村氏)。

企業概要

企業名
有限会社種村建具木工所
コア技術
木製建具・木製家具 製造取付
代表者
種村義幸
住所
大阪市平野区喜連4-7-10
電話番号
06-7898-6352
企業HP
http://tanemoku.com/
資本金
300万円
従業員数
6名

認証:大阪製ブランド2016、経営革新計画承認、大阪ミュージアムショップ出品企業