小さな町工場でも、世界を目指すものづくりができるはず。

成功のツボ

挑戦:照明器具の板金加工で培った技術を武器に自社製品でBtoCに挑戦
成果:販路開拓や展示会出展など、未知の世界で実績を積む

注力するNCTパンチプレス、ブレーキプレス加工については投資を惜しまない。他社に先駆けるように最新鋭機の早期の導入をおこない、独自の研修プログラムを作成して安全教育を徹底してきた

100%下請け企業からの脱却へ、もがき苦しんだ時代

「何でもいいから、現状打破する変化が欲しかった」。西當照明の2代目である西當和久氏は焦っていた。特注施設照明器具の板金加工や作業デスク向け照明器具製造を手がけていた同社は1963年に創業し、照明器具の板金加工およびOEM生産を開始。特に3mまでの長尺の蛍光灯に対応した機械を所有する強みを持ち、それによって長尺物の加工技術を伸ばしてきた。また特注照明機器では反射板がR形状のものが多く、R曲げ加工を得意とする。同様に特注製品の設計製造のノウハウもあり、機械が多いので量産対応できた。それでも時代の変化は、同社に逆風を吹きつける。

2代目となる西當和久代表取締役。結婚後、義父の会社に入社してから29年。異業種交流会に所属し、MOBIOのセミナーへの参加や展示会出展を通じて、外の空気を取り込むことで社内の改革や活性化につなげてきた

戦後、ほとんど変わらない業界を特注品の受注で生き延びてきたが、近年LEDの登場で一変する。2012年の後半、LED人気が高まり受注が激減し、リーマンショックで業績が落ち込んだところへ大打撃を受ける。西當氏は新規顧客獲得のための営業活動に注力。MOBIO(ものづくりビジネスセンター大阪)のセミナーにも何度も通い、情報や出会いを求めた。そんな状況で自社製品の開発を思いつく。同時に「50年以上もものづくりをやってきて、特許のひとつもないはどうか」と思いはじめた。2013年に初の自社商品作業用スタンドが完成、念願の特許は取れたが、製品は売れなかった。しかし失敗が次に活きてくる。「最初の失敗の原因はコア技術のとらえ方の間違い。当社は板金ありきと考えていましたが、コアとなるのは照明器具製造の技術だったんです」

災い転じて福となす。狙うべきは業界のスキマだ。

復活の兆しが訪れたのは2014年夏。工場に隣接する田畑が一時的に休耕したことで大量の虫が発生した。虫は工場内にも侵入し、電気まわりからガラスなどに張りついて大変な状況に。西當氏は捕虫器というものをはじめて意識した。しかしネットで探しても業務用は天井吊りか壁への貼付けが一般的。欲しかったのは虫が発生する夏だけ使用する、いわば季節家電のようなもの。ふと思った。「自社の技術を100%使えば、今までにない捕虫器がつくれるのではないか」。うちには携帯型の照明器具をつくってきた技術も材料もある。そこから設計をはじめ、2015年初頭から「トレテーラ」の開発を始動。製品にはR曲げや先端カール形状など、持ちうる技術のすべてを注ぎ込んだ。抜き工程を経た平面状の板を立体化する「曲げ工程」は、板金加工において技術的ノウハウが最大限発揮される箇所。トレテーラはカール形状の先端で粘着紙を挟みこむようにして、粘着紙がとらえた虫が見えない形状になっている。
温度検査をしながら改良を加え、初のお披露目となったのが2015年11月、マイドームの『ビジネスフェスタ』。会社としても初の展示会出展だ。新入社員が着慣れないスーツ姿でブースに立ち、必死になって説明した。そこで良い反応を得て、翌年1月には完成にこぎつけ、3月にはネット販売も開始した。ポツポツと売れはじめ、そこから製品が求められる市場も少しずつ見えてきた。そもそも同社が捕虫器をつくろうと考えたきっかけは扱う資材にもある。板金加工では、薬剤は材料の鉄板につくと塗装不良や錆の原因となるため、殺虫剤が使えなかったのだ。同じような条件下で、ものづくりをするところはあるはず。そんなスキマこそ狙うべき市場だと考えた。

町工場から生まれるイノベーションで「世界」を目指す。

翌年2度目の展示会では、その読みが当たった。化粧品製造業で既存の捕虫器がすべてトレテーラに置き換えられたのを皮切りに、化粧品や医薬、食品加工業界にターゲットを絞って営業を進めた。いくつかのメーカーに導入されシェアを伸ばしている。また「大阪ものづくり優良企業賞2016」を受賞したことをきっかけに、さらなる活用をすすめていたMOBIOで大阪府出展ブースへの共同出展事業者を募集する大規模展示商談会活用事業(出展支援事業)を知った。その事業を利用し、2018年には東京ビッグサイトで開催される『機械要素技術展(M-Tech)』に出展。初めての東京出展に挑戦し、社員一丸となって呼び込みを行った結果、たしかな手ごたえを感じた。

ミラサポによるワークショップを開催。「これまでは正社員だけでしたが、現在は実習生や派遣社員もおり、今後の外国人採用も見据え、多様性に富んだ職場としてどこまでやれるかをワークショップで実験してみました」

その後も精力的に新商品にも取り組んでいる。日中はトレテーラのブラックライトが太陽光と混ざって効果が薄れることから、とくに日中活動する「やぶ蚊」に対応するため生まれたのが「トレテーラrumie」。さらに一般家庭もターゲットに見据え、小型化したモデルを開発中だ。西當氏が今後、自社の命運を分ける課題と語るのは「海外展開」。ネックだった蛍光灯用の10wインバータを製造できるようにし、海外仕様を試作。販路は今年10月開催された産業創造館による『製造業の逆見本市2018』のマッチングで商社とのつながりが生まれた。「海外は生態系も違い、温度・湿度の問題もある。現地での実験結果によって新たな改良や工夫も必要。今後3ヶ月、実験して商売として成り立つかを見ていきます」
そういった積極的な姿勢が板金業にもいい影響がもたらされている。照明だけでなく、建築金物などの加工受注も増えた。トレテーラの海外展開がうまくいけば、商社を通じて海外から板金の仕事を取れるようになるかもしれない。そういった発想の転換によって、苦手だった営業も面白くなってきたという。「国内は人口減や市場縮小といった暗い話題ばかりですが、視線を海外に向ければ、まだまだものを欲しい人はいて大きな市場がある。そこに自社製品を提供できれば。ノウハウはありますから、状況をうまく活用できれば可能性はあるはずです」。そう語る西當氏の視線は世界を見つめ、きらきらと輝いていた。

ブレイクタイム

Q

最近嬉しかったことは何ですか?

A

娘は大学時代、タイに留学していたのですが、先日、当時の友人が日本に遊びに来てくれて、家族と一緒に食事にいったことですね。最近「グローバル」ということを意識しはじめたというのもあって、つたない英語でも海外の人と話せたので、テンションが上りました。

Q

こどもの頃は、どんなタイプでしたか

A

若干目立って、ときどき面白いこという子かな。野球が好きだったので、自分で草野球のチームをつくってキャプテンとかしていました。

企業概要

企業名
株式会社西當照明
コア技術
特注照明器具+R曲げ技術+短納期量産加工(多品種同時生産)
代表者
西當和久
住所
東大阪市菱江2-3-12
電話番号
072-964-5110
企業紹介
http://www.m-osaka.com/jp/takumi/9072/
企業HP
http://www.saito-syoumei.jp
資本金
1,000万円
従業員数
8名

認証:意匠登録第1543167号、商標登録第5847279号、特許第6226672号、エコアクション21認証0010251、大阪ものづくり優良企業賞2016、平成29年度経営革新承認企業、東大阪ブランド オンリーワン認定製品(粘着式捕虫器トレテーラ・ルミエ)