フィギュアで培った技術を基盤に、ものづくりのネットワークを築く

成功のツボ

挑戦:取引あっせん事業や展示会出展事業を活かし、情報収集・販路開拓へ
成果:産学官連携が進んで大きく発展、経営や事業面でも安定へ

インキュベーションオフィスへの入居がきっかけで、医療の世界へ。このリアルに再現された人体模型以外にも、神戸大学との産学連携で医学生向けの手術訓練用脳モデルなども製作

会社が伸びるためには、「成長分野の見極め」がカギ。

ユウビ造形の設立は1992年。 起業した森田社長がはじめたのは、これまで縁のなかった婦人服用ボタンの注型業だった。文字通り材料を型に注ぎ込んで化学反応で固める注型は、金型に代わり、シリコン型を使用することでコストもかからず、早く自由な形状に成形できるもの。「やったことはなかったが、技術さえあればできる」と考えて創業。事業を進めていくうえで、今後のことを考えると疑問が湧いた。「ボタンでは差別化はできない」

森田氏が先頭に立って、さまざまな認証を取得。「現在は奈良高専と共同で環境問題に取り組み、会社としてはエコアクション21の認定を受けようと務めているところです。またそれをベースに、CO2削減を目指しています」

創業時、森田氏は事業内容を決めるにあたって「まず競争相手が少ないこと。次に歴史が浅い業界であること。そして海外に事業が進出していないこと。この3つを兼ね揃えていれば、あとは技術を伸ばせばやっていける」と考えていた。その条件に見合うものとして、当時はまだマニアのものでしかなかったフィギュア製作に乗り出す。大手玩具メーカーに営業にいき、つくり方もわからないのに「将来、絶対日本一の会社になるから仕事が欲しい」と訴えた。その後は試行錯誤を重ねて、複雑な形態の造形物を忠実に再現する注型機を開発。独自の遠心力技法を駆使して数々の細密造形物をてがけ、次第にマニアの間で「ユウビ造形」の名は浸透していく。そしてその後のブームとともに会社を拡大していった。

MOBIOでの出会いにより、今後の進路が見えた。

独自の遠心力技法を実現する注型機では、注入樹脂が先端までいきわたり、細部に至るまできっちりと表現できる。MOBIO北館1階に展示されているゲッターロボをはじめ、有名どころのフィギュアはほとんど手がけたという

ユウビ造形にとってターニングポイントとなったこと。それは「2004年から5年間、R&D(研究・開発)センターをインキュベーションオフィスに開設し、MOBIO(ものづくりビジネスセンター大阪)との関わりを持ったこと」だと語る。南館のインキュベーションオフィスに一期生として入居。「大阪産業振興機構でおつきあいのあった方から、今度クリエイション・コアができると聞き、説明会に赴いたところ、さまざまな業界の情報が集まるということで可能性を感じて入居を決めました」。当時は10社ほどが入居しており、一期生同士みんな手探りの状態。「オープンな雰囲気で、いつしかうちのオフィスにみんなが集まるようになって(笑)」。ものづくりや会社の運営に関わるすべてが集まっているから、材料などの相談もすぐでき、大阪産業振興機構が展開する取引あっせん事業や、展示会への出展など、普段からMOBIOのネットワークを活用することで情報収集や営業もできた。どこにアンテナを張るべきかという情報も早く、困ったことがあったらすぐに話を聞けるプロもいる。おかげで自らが進むべき道も、おぼろげながら見えてきた。「自社製品が海外に輸出する際のRoHS規制の検査機関を教えてもらえたり、法律や特許までものづくりに関する情報をたくさんいただきました」
当時はフィギュアで名を知られていても、受注が不安定であえいでいた頃。会社の安定経営につながる柱がなかったが、ここで得た情報やネットワークをもとに、産学連携で学生向けの医療をはじめ、様々な分野へ挑戦することとなる。最近ではインキュベーションオフィスで同期だった、機械装置メーカーのDAIKOU VIETNAM TECHNICAL CO.,LTDと業務提携を結んだ。社長とは互いに夢を語り合った仲間で、ベトナムに工場を持つ同社から海外の最新情報も常に得ることができる。

第二の転機、ホビーから会社の柱となる新分野へ展開。

同社がフィギュアなどのホビー分野で培ってきた高い技術は、多彩な分野で発揮されている。遊戯施設の乗り物に使われる安全バー用クッションも、注型技術による製品のひとつ。「社名に造形とつけたからには、絶対テーマパークに納品したい」と、新規オープン前に現地を訪れた森田氏。実はテーマパークに行くのは初の体験。そういう新鮮な目で眺めるといろんなことに気がつく。遊具や乗り物は常に天日にさらされ、水濡れがあり、安全性の確保が必要。以前の会社ではスキーブーツの生産に関わっており、遊具に求められる要素はスキーブーツと同じだと感じた。これならノウハウもある。今までは物販での参入を狙っていたが、営業先を技術部に変えることで遊具の安全対策品製造の仕事を得た。

注型用のマスターモデルを作るための3Dプリンタ。精度を保てるよう、機械室の環境を一定に保っている。

また注型の基盤技術を活用し、自動車産業にも進出。車両関連で大きな役割を果たす部品の治具を製作している。精巧な造形物がつくれるという優位性を持つ同社に、大手企業から製作の依頼がきたのだ。まずは何に使われるかわからないまま試作品に取り組み、それが認められて次々と仕事が舞い込んだ。現在ではこの仕事が、会社の次世代の柱となるほどに成長を遂げている。
「僕は創業時からずっと、注型もフィギュアもつくり方がわからないところから幾度も実験して、失敗を重ねて技術を磨いてきました。でも若い社員は不良品が出ないしくみのなかで育っているから、何かあったときに応用ができない」。そのためにも社内での勉強会が頻繁におこなわれている。「ハードルが上がれば上がるほど、新規参入は難しくなります。だから取引先にはどんどんむずかしいことを言って欲しいと伝えています。どれだけハードルが上がっても、僕たちは絶対にクリアする自信があるから」。たゆまぬチャレンジ精神で、未知の世界を切り開いてきた森田氏だからこそ、この言葉が説得力を持つ。

ブレイクタイム

Q

お休みの日は何をされていますか?

A

妻の買い物に運転手としてつきあうことが多いですね。ときには気晴らしに、ドライブにでかけることも。最近は丹波篠山まで足を伸ばして、秋の味覚を楽しみました。

Q

息子さんに事業承継される予定ですか?

A

70歳くらいまでには会社を長男(写真右)に譲って、僕は仕事から一切手を引く予定です。息子は数年前に入社して、今ようやく仕事の難しさがわかってきたところ。最近は「社員の生活も責任を負わなければならない」と考えるようになって、経営者としての意識も芽生えてきたようです。

企業概要

企業名
株式会社ユウビ造形
コア技術
マスター製作から熱硬化性樹脂を活用した多品種少量生産
代表者
森田寿一
住所
東大阪市今米1-18-15
電話番号
072-962-7516
企業紹介
http://www.m-osaka.com/jp/takumi/2044/
企業HP
http://yuvi.co.jp/
資本金
1,800万円
従業員数
16名

認証:東大阪商工会議所 優良企業表彰会頭賞受賞、経済産業省・中小企業庁 「元気なモノ作り中小企業300社」選定、経済産業省 近畿経済産業局「KANSAIモノ作り元気企業100社」選定、経済産業省 近畿経済産業局 「経営力向上計画」 認定